09.夜道にわんこ
ライグルは良い子(狼)
私は、軽いトランク一つで、夜の道を足早に歩く。月明かりで少し明るいとはいえ、前世のように明るい街灯はない。
思ったより暗くなるのが早かったな…風が冷たくなってきて、肩をすくめながら、さらに足を早める。
ふと、背後に気配を感じて振り返る。だが、誰もいない。
「……気のせい?」
自分に言い聞かせるように前を向いてまた歩き出す。
しばらくして、再び振り返る。
今度は――街灯の影に金色の瞳?銀色のわんこのような子が、こちらをじっと見ていた。
「……何、あの子。迷い犬?」
足を止めかけたその時、別方向から足音が近づいてきた。ここまで臭うお酒の匂いに、後ずさるが、大変に酔った様子の男たちが、ニヤついた表情で絡んできた。
「ねぇお嬢ちゃん、こんな夜に一人で危ないよ?」
私は、どうにか避けようと、さらに後ずさろうとした――そのとき、金色の目のもふもふが、音もなく割って入り、私と酔っ払いの間に立ちはだかってくれた。
瞬間――
「……グルルル……」
低く響く唸り声。視線を移すと、もふもふが私を守るようにすぐ近くに移動していた。その大きな体から放たれる殺気に、男たちは一瞬で青ざめ、舌打ちとともに足早に去っていく。
「……守ってくれたの……?」
狼は何も言わず、ただミーナを一瞥して、ちょこんとお座りをした。
「お行儀がいい…てことは飼い犬かしら?」
(わんこなのに、どこか高貴な雰囲気すらあるわね…飼い主さんがいいとこのわんちゃんかしら?)
先を急ぐことを思い出し、私はまた早足で歩き出そうとすると、もふもふもそっと横に並んで着いてくる。
私が止まると止まり、私が進むと進むわんこ。
――この子、私を護ってくれてるよね?
「……人懐っこい子なんだね、君。ありがとう……」
もふもふは、まるで私の言葉を理解しているように、クゥンと一言返事をした。きっと賢い子なのだろう。
もふもふと歩き続けて、やっと寮の明かりが見えてきた。私はほっと息をつく。門の前まで来ると、わんこはまたお行儀よく私の隣にお座りした。
歩きながらだとよく見えなかったけど、とても綺麗な金色の瞳の銀色わんこ…あれ?最近どこかで見たような…既視感を感じつつ
「今日はほんとにありがとう。お名前は?どこからきたの?……撫でてもいい?」
「クゥゥん」
いいってこと?と思い、私は撫でさせてもらうことにした。
そーっと手を近づけてみても、怖い感じはしなかった。わんこに匂いを嗅がれながら、喉下や体を撫でてるうち、わんこも私にじゃれてきて、もう最高の癒しだった。
門限があるので帰らなきゃ!と気付き、
「ごめんね。私帰らなきゃ。」
と離れたとき
わんこが寂しそうな目をして、だけど理解した様子でお座りした。(なんて良い子!)
「じゃあね、ありがとう。また会えたらいいな」
と手を振り、寮門に向かおうとすると
わんこは、尻尾を一度ふり、去って行った。
私は笑いながら、門をくぐり、寮の中へと入っていく。今日はいろいろあったなぁ。
うん、今夜はぐっすり眠れそう。
今日出会った温かさを思い出ながら、私は自室を目指した。
銀狼怪奇ファイル回です。