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その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
5章.蜜と毒の幕開け

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87.同担

食糧庫に、ジュリオが戻ってきた。

傍らには、一頭の大きな狼がついている。灰銀の毛並みと、どこか人懐こい黄金色の瞳が印象的な、立派な狼だ。



「……団長んちの、ぎんちゃん?」

ミーナは驚きの声を上げる。



レンは何かを思案するように目を細めていた。



「一時的に借りてきた。鼻が利くからな……」



「セリアの匂い、ここから辿れるか?」



ぎんちゃんはリボンに鼻を近づけ、くんくんと数度嗅いだあと、音もなく走り出す。



「よし!」

ジュリオが声を上げ、すぐさま後を追う。



「……っ、待ってください!」

ミーナが追いかけようとするのを、ジュリオが手で制した。



「ここは俺たちに任せて。ミーナちゃんは、危険が及ばないように動いてくれ」



ミーナは唇を噛んだが、やがて無言で頷いた。



迷いなく駆け出した銀狼。その背を追って、ジュリオも全力で走る。



(セリア……無事でいてくれ)



冷たい風が顔を打っても構わず、彼はぎんちゃんの後ろ姿を見据えていた。

倉庫の裏手、資材置き場の奥を抜け、辿り着いたのは寮区の外れ。かつて物置や簡易の詰所として使われていた、古びた小屋だった。



(ここに……?)



ぎんちゃんは小屋の扉の前で立ち止まり、低く唸った。

鼻先で扉の隙間を指し示すように動く。



ジュリオが静かに近づくと、扉の下から漏れ出る空気が濁っていた。

湿った埃、かびた木材、そして――微かに鼻をつく鉄のにおい。



(血……?)



ぎんちゃんは後ろ足で地面を蹴り、ジュリオを見上げる。



「……行くぞ」



ジュリオは短く息を吐き、剣の柄に手をかけたまま、そっと扉を押し開けた。



――ギィ……



中は薄暗く、ぼろ布のかけられた棚や、傾いた机が散乱していた。

その奥――縄で両手を縛られた小柄な影が、壁際に蹲っている。



「……セリア!」



思わず叫んで飛び込もうとした瞬間、銀狼がぴたりとジュリオの肩を押さえた。

唸る。周囲を警戒している。



次の瞬間――



「……誰か来る!」



ぎんちゃんの耳が跳ね上がり、ジュリオも気配を察知する。

物音と共に、小屋の奥、物陰からぬっと現れたのは、荒れた髭面の男――バルトだった。



「……やっぱり来やがったか、騎士サマがよ」



手には錆びた短剣。目は血走り、何かに追い詰められたような狂気があった。



「おまえは……バルト! 手遅れになる前に降伏しろ」



ジュリオは静かに、しかしはっきりと声を投げる。



「ふざけんな……あんなところでいちゃつきやがって……! あの女が余計なことに気づかなきゃ……!」



バルトが突進してくる。



ジュリオはセリアに背を向けながら、庇うようにしながら、一歩前に出た。



「――セリア、すぐ助ける」



その声に応じ、銀狼がバルトの横から飛びかかった。

バルトは咄嗟にかわしたが、バランスを崩す。



その隙を逃さず、ジュリオが踏み込む。



「……悪いけど、俺、もう逃げないって決めたんだ! それに...俺誰かといちゃついた覚えないし!」



剣がうなりを上げ、バルトの手から短剣が弾き飛ぶ。



「俺はセリアちゃん一筋なんだっっ!」



次の瞬間、ジュリオは男の懐に入り、ためらいなく肘を打ち込んだ。

バルトが呻いて倒れ込む。

そのまま押さえつけ、縄で縛り上げると、ジュリオは大きく息を吐いた。



「セリアちゃん、大丈夫……?」



ジュリオが駆け寄ると、セリアは目を潤ませ、小さく頷いた。

首筋には、ナイフを当てられたときにできた浅い傷があり、血が滲んでいる。



「……ジュリオ、来てくれたんだ」



「遅れてごめん。でも、もう大丈夫だから」



縄を解き抱き起こすと、扉の外から駆けつける足音が聞こえてきた。

ヨナスが先頭で駆け込み、後ろにはミーナとレンもいる。



「セリア! 無事か!」



「兄さん……!」



兄妹が抱き合う一方で、ジュリオは倒した犯人を部下に引き渡す。

(セリアちゃんの視界から消えろ……クズ……)



ミーナもセリアに駆け寄る。



「よかった……! セリアさん」



そして、ことの次第を見守っていたぎんちゃんに駆け寄り、思わず抱きしめた。

ぎんちゃんは、いつものように頬を寄せて甘えてくる。



「ふふん、ま、たまにはやるでしょ、俺も」

照れ笑いを浮かべるジュリオの肩に、ヨナスが静かに手を置いた。



「……見直したよ。ジュリオ」



「そ、そう? なんか照れるな……」




セリアが小さく笑った。



「私も……見直したかも」



「えっ!? ちょ、それ本気で言ってる!?」



「……ふふ、どうだと思う?」



からかうように笑うセリアに、ジュリオは真っ赤になりながらも、どこか嬉しそうだった。



____________



「さて……ちょーっと吐いてもらいますかね。セリアちゃんを傷つけた罪は重いぞ、クズ……」



「おっと、ジュリオ、奇遇だね。妹を巻き込んだヤツに遠慮はいらねぇ。頼むぞ……」



「さすが、お兄さん、大好きっす」



愛が重めの男たちの、仄暗い同盟が生まれた瞬間だった。

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