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その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
5章.蜜と毒の幕開け

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86.探す

「……あれ? いないな」


厨房の扉をそっと開けて中を覗いたジュリオは、くすぐったい違和感に眉を寄せた。



いつもなら、ここにいてくれるはずのセリアが、どこにもいない。



作業台には玉ねぎの皮と、途中で手を止めたようなまな板。それだけが、何か不自然に見えた。



「セリアさんなら、来てませんよ?ミーナさんは裏のほうに出ていきましたよ?」

下働きの少女が、当たり前のようにそう告げた。



料理長のマイルズ、使用人長のマチルダさんに聞いても知らないらしい。




心の中で、得体の知れない何かが広がる。



(……まさか...な?)


 

ジュリオは、言葉とは裏腹に、即座に厨房の裏手から、駆け出していた。


 

そこにはセリアもミーナもいない。



冬の空気が、肺を突く。

まずは...、ライグルか?あいつは鼻がきく。急ぐ中、階段で鉢合わせたのは――セリアの兄だった。

 


「……副隊長殿? すごい勢いで……」



「お兄さん!セリアちゃんが見当たらなくて。何かご存知ですか?」


 

兄の目が鋭くなった。



「俺と話した後、ミーナ嬢を呼びに厨房へ行ったぞ?会わなかったか?ミーナ嬢とレンは応接室で商談中だ。」



ふたりはそのまま応接室へ――扉を開けた瞬間、ミーナにセリアについて確認する。



「セリアさんなら、裏棟の食材倉庫に行きましたよ。()()()()()()()マイルズさんから頼まれたものを取りに。」

ミーナは、少し不思議そうに言った。



!!

ミーナには影に護衛がついている。

セリアにはない。



マイルズは知らないと言っていた...



何かがおかしい。



部屋にいたのは、ジュリオ、ヨナス、ミーナ、そしてレン。

誰もがすでに察していた。

目が合うだけで、言葉は不要だった。



裏棟の食材庫に急いだ。



重い扉を開けると、散らばった干し肉。そして、棚にあった荷物が散乱し、ミーナがプレゼントしたリボンが落ちていた。



散らばった干し肉と、深紅のリボン。それは確かに、あの時ミーナがセリアに贈ったものだった――。


 


「……これは、セリアちゃんの――!」


 


ジュリオが食材庫の中に足を進めるが、暗がりには誰もいない。

空気が淀んでいる。

 


「……拉致、か。最悪だ」



レンが低く呟いたとき、後ろから走ってくる足音がする。


 


「ジュリオさん……? セリアさんいましたか...?」



後から追いついたミーナだった。


 


その顔を見た瞬間、ジュリオは表情を引き結んだ。


 


「ミーナちゃん。セリアは……ここで、何者かに攫われた可能性がある。」



「え……?」


 

ミーナの顔が青ざめる。

(もしかして、私のせい...?)



だが、ジュリオはすでに動き出していた。



―――――――――



ジュリオは倉庫を出て、すぐにライグルの元へと駆けた。



ちょうど廊下を歩いていた団員にすれ違いざま、声をかける。


「おい、急ぎの用だ。団長に伝えてくれ。厨房のセリアが何者かに攫われた可能性がある。ミーナ嬢が狙われたと見て間違いない」



「はっ……!」



団員が足音も荒く駆け出していくのを見送ると、ジュリオは息を整えつつ、厩舎裏の訓練場に向かった。



案の定、そこにはライグルがいた。

獣のような感覚を研ぎ澄まし、黙々と剣を振っていた姿に、ジュリオは躊躇なく声をかける。



「ライグル!」



その声に、ライグルが振り返る。

ジュリオの真剣な表情を見て、すぐにただ事でないことを悟った。



「セリアが攫われた。いや、ミーナちゃんの身代わりとして攫われた可能性が高い」



ライグルの目が細くなる。鋭い視線が、すでに周囲を捉えていた。



「……場所は?」



「裏棟の食材倉庫。干し肉とリボンが落ちてた。手がかりになりそうなのはそれだけだ」



「分かった」



「頼む...」

ジュリオとライグルは何かを確認するように、目を合わせ、ライグルが頷いた。



「あぁ、任せろ。すぐに追いつく。お前は先に裏棟にもどれ」



そう言った瞬間、ライグルは駆け出した。


____________


訓練場の脇道に逸れ、ライグルは迷わず自室へ向かう。

扉を閉めるや否や、訓練着を脱ぎ捨て、呼吸を深く、整える。


「……まさか、こんな形で力を使うとはな」


次の瞬間――

肌がしなやかな銀毛に覆われ、背が伸び、骨が変形していく。


ほんの十数秒後、窓から飛び出したのは、金の瞳をした一頭の狼だった。


____________



ジュリオは、見逃した手がかりがないか見るために、再び裏棟の食材庫へ戻る。




しばらくして

……銀灰の狼が姿を現した。



「……悪ぃ」

息を呑むようにして、ジュリオは銀灰の狼を見つめた。

金の瞳が静かに揺れる。その奥にある意志を、彼は知っていた。

それは紛れもなく、仲間であり――“ライグル”だった。


 


狼の金の瞳が静かに揺れる。

だが何も言わず、2人はすぐに裏棟の食糧庫へ向かった。

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