83.ヨナスのジュリオ観察
視線の正体
ここ最近、商談のついでに騎士団本部にに立ち寄ることが増えた。レンがあれやこれや、ミーナ嬢が気に入りそうなものを持ってくるからだ。
妹は今日も、厨房に、洗濯だの掃除だの、妙に甲斐甲斐しく動き回っている。
「セリア……おまえ、働きすぎじゃないか?」
「はいはい。兄さん、ガタイがいいのが取り柄でしょ? こっちもお願い」
返事も聞かず、洗ったばかりの制服の山を押しつけられた。
仕方ない。こっちも妹には甘い。
そんなある日。訓練場の端で、例の“ジュリオ”を見かけた。
金茶の髪に軽い笑み。
いつもどこかヘラついていて、どうにも信用ならない。
(妹をからかうような態度も気に入らん)
そう思っていたのだが――
「隊列の間隔が開きすぎ! そこの盾、重心が前すぎる!」
「はい! 副隊長!」
訓練場にて、的確な指示を飛ばすその姿に、一瞬、目を奪われた。
その直後、模擬戦で素早く敵役を倒していく。動きも鋭い。余裕もある。
(……おや?)
ふと場所を移すと、厨房でも別の顔を見た。
「はい、これミーナちゃん用の紅茶! 甘さは控えめなやつね!」
「……ミーナ嬢は、甘いものが苦手なのか?」
厨房の下働きの若者と、何やら打ち合わせ中。
彼の口調は軽いが、段取りは早く、無駄がない。
部下の若い騎士たちが、手を止めて彼に笑いかける。
「副隊長が動くとスムーズっすね〜」
「うちの隊、空気いいっすもんね」
人望がある。軽口に見えて、気配りもある。
しかも、周囲に安心感を与える柔らかさを持っている。
(……どういうことだ?)
別の日には、資料運びをしていた妹の重そうな箱を、何も言わずに持っていた。
そのあと叱られていた。
「手伝えとは言ったけど、黙って運んだら意味ないでしょ!台帳ズレる!」
「す、すんませ〜ん……」
(尻に敷かれてるのか?)
だが、嫌がってる様子はない。妙に嬉しそうですらある。
その後ろで、使用人長のマチルダ女史と談笑する姿もあった。
(あいつ、誰とでも仲良いな)
そしてまた別の日。
ギルバート団長とアレクセイ殿下の真ん中で、何か真剣な顔をして話しているのを見た。
その顔は、軽口を叩く男のものではなかった。
――本物の“参謀”の顔だ。
剣が立ち、諜報もできて、人望もある。
それでいて、妹にはあの態度。
(……有望なやつなのかも....しれないな)
騎士団をあとにしながら、ヨナスは静かに思った。
ただし。
(セリアの気持ちを傷つけるようなことがあれば……話は別だが)
その胸には、商人としての理性と、兄としての警戒心が、まだ同居していた。
ジュリオをロックオンした、兄目線が描きたくて




