82.俺..なんかした?(ジュリオ視点)
狼がミーナの部屋に入り込んだ数日後。
騎士団のいつもの朝、なんとなく顔を出した食堂。
(……あれ?)
なんとなく視線を感じて、そっと振り返る。
いた。セリアちゃんの兄、ヨナス=マークレイ。
(あれ? なんでここに?)
商人ってのは分かってたけど、こんな早朝に来る用事ってあるか?
しかも、明らかに……こっち見てる。
いや、気のせい──じゃない。完全に目が合った。なんかすごく目が合った。
(……俺、なにかやらかしたか?)
思い返してみるけど、セリアちゃんに失礼なことは……うん、多分してない。はず。いや、してない!
けど、そのあとも廊下ですれ違えば、
「……ああ、副隊長殿か」
「っ!? あ、どうも!」
なんか妙に低い声!
しかも“副隊長”ってわざわざ強調した感じ!
その日の昼には、外でバッタリ出くわして、
「……仕事中か?」
「い、いえ、今は休憩で……っす」
「……ふうん」
(……なんだその“ふうん”って!?)
別に何か言われるわけじゃない。
でも、目が合うたびに心がざわつく。
というか、圧がすごい。ずっと“品定めされてる感”がある。
(……これ、完全に監視されてるよな?)
何があったのか、何をしたのか。思い当たる節がないぶん怖い。
(てか、セリアちゃんは普通にいつも通りなんだよな……)
廊下で声かければ、「あら、今日はいい天気ね、ジュリオ?」なんて、相変わらず強気で爽やか。
(……あの笑顔で、俺がこんなにビビってるの、全然気づいてないよなあ)
もういっそ聞いてしまおうか。「あの、お兄さん……何かご立腹ですか?」って。
けど、セリアちゃんの兄だし、下手なこと言ったら後が怖い。
(ていうか、俺……なんでセリアちゃんのお兄さんに、こんな気を遣ってんだろ)
──気づけばまた、ヨナスの視線が背中に刺さる。
(うう……やっぱ、無理だわ……絶対あの人、“妹を守る鋼の兄”だ……)
内心でビビりつつ、何食わぬ顔で微笑み返した。
でもその笑顔がどこか引きつっていたのは、きっと気のせいではなかった──
ジュリオはビビりです。




