81.ライグル目線
ーー昨晩、ライグルの自室にて
昼間、ミーナに言われた言葉が頭を離れなかった。
「会えなくて寂しい――」
……会いたいと思った。ミーナに。
ただ会って、声が聞きたくて、そばにいたくて――
ぎんちゃんの姿なら許されるんじゃないか.....
気づけば、僕はまた“あの姿”になっていた。
月が昇る夜。
森を抜け、城をすり抜けて、懐かしい匂いのする部屋の前へ。
窓越しに見えた、優しい明かりと、彼女の横顔。
(……ああ。やっぱり、好きだ)
見つけてほしくて、足音を立てた。
戸惑う顔、でもすぐに笑みが綻ぶ――
「入って。今日は特別ね」
その言葉が、なんだかくすぐったかった。
部屋に招かれ、あまり近づかないようベッドの下に潜ろうとして――
(いや……今日は……)
気づけば、彼女の膝に頭をのせていた。
ふわりと撫でる指先が、あたたかくて。
優しい声が、心にしみて。
(……こんなに、安心するなんて)
ミーナがベッドに腰掛け
「おいで....」
なんていいうから......
自然とその隣に身を寄せていた。
もふもふの姿のまま、彼女の胸元に顔をうずめて――
そのぬくもりに、溺れるように目を閉じた。
こんなに近くにいて、名前も呼ばれて、笑ってくれて。
なのに本当の僕は、この声で言葉を返すこともできない。
(……せめて、夢の中でもいいから、君に触れていたい)
彼女の腕が、そっと背中を抱き寄せる。
眠りたくないと思ったのに、気づけば、深い眠りに落ちていた――。
ーー明け方・ライグルの心の声
あたたかい。柔らかい。
この腕の中、ずっといたい……でも――
(……やばい)
目を覚ました瞬間、現実に引き戻される。
ミーナの腕の中。ベッドの上。人の気配のする朝。
(あれ? 俺……え? 抜け出すタイミング……)
逃すな。今しかない。
そう思っても、ミーナが気持ちよさそうに寝息を立てていて、動けない。
(……可愛い)
いや違う、逃げろ、俺。
でも、ミーナがぎゅっと腕を回してきて――
(……もう少しだけ……)
ふっと目を閉じた。
そんなことを思った次の瞬間。
部屋の扉が、ノックもなく――
「団長! ……わ、わぁああああああ!?!?!?」
ジュリオの絶叫で、朝が始まった。
ーー明け方、ミーナの寝室
「……やばい。やばい、これやばい……」
人間の理性を持つ銀狼・ライグルは、完全に詰んでいた。
(……今起きたら、確実にバレる。ていうか、ずっと腕まくらのままじゃないかこれ……ッ)
寝息を立てるミーナの顔は、すぐ目の前。
彼女の細い指が、無意識に自分の毛にそっと触れていて――
(う、動けない……でもこのまま……いや、ずっとこうしてたい……)
幸せと焦りで内心ぐるぐるする狼騎士。
だが、甘い時間は、唐突に終わりを告げる。
ギルバートとジュリオ、まさかの早朝突撃。
ーー引き剥がされながら
本当は嫌だった。ずっとここにいたかった。
でも、現実はそう甘くない。
「……ふー……」
深いため息をついて、俺は渋々、布団から引きずり出された。
「くぅうん...」
情けない声がでてしまうのは、狼だから...仕方ない。
ずっと狼のままでいたかった...
自室に連れてこられた俺に
「おま、何やってんだライグルうううう!!!」
「うァアン...!!!」
(もう情けない声しか出てこない)
「チッ、まずは服でも着て出直してこい!」
そう言って、団地とジュリオは出て行った。
うゎ、これどうやって...
人間に戻りたくねぇ...
初めてそう思った。




