79.あいつどこ行った
ーー早朝・騎士団本部
ジュリオ視点。
「……あれ、今日って当番だったよな? 隊長、まだ来てない?」
俺は手元の当番表を確認しながら、不在の机を見つめた。
「まさか……また“あの時期”?」
.....街中で暴走でもされちゃ厄介だ....誰に言うでもなくつぶやくと、俺は急いで団長室に向かった。
ーー団長室
「……ああ。そろそろだな」
朝っぱらから、野太い声...俺はセリアちゃんの可愛いおはようが聴きたいんだ...なんでこんなことに...
ギルバート団長は腕を組み、渋い顔をしている。
1年に一回冬至の時期に、獣化する時期がある。その時期は理性より狼の本能が勝り、思考が狼寄りになる。いつもは体調不良や、訓練と称し山に籠るんだが。。
それにしちゃ、まだ時期が早い....
あの子は犬と思ってるが、狼の牙は鋭く、爪も強力な狩の武器となる。
「えっ、マジすか? じゃあ今ごろどこかで——、山?」
「……昨夜、庭で妙な足跡を見た。狼の。しかも、城内に続いてた」
「あの子の寮の方だ...」
「……つまり、まさかとは思うけど……」
二人の視線が、自然とミーナの部屋の方向を向いた。
「行くぞ」
「団長!? さすがに女の子の部屋に朝から突撃は——(朝からミーナちゃんの部屋に行くとか、後でライグルに殺られる……)」」
「黙れ。手遅れになってたらお前のせいだ。」
「な、なんで俺ーー!?」
「くっ、いろんな意味で暴走してなきゃいいがな...」
ーー明け方・ミーナの部屋にて
あたたかい。柔らかい。
この腕の中、ずっといたい……でも――
(……やばい)
目を覚ました瞬間、現実に引き戻される。
ミーナの腕の中。ベッドの上。人の気配のする朝。
(あれ? 俺……え? 抜け出すタイミング……)
逃すな。今しかない。
そう思っても、ミーナが気持ちよさそうに寝息を立てていて、動けない。
(……可愛い)
いや違う、逃げろ、俺。
でも、ミーナがぎゅっと腕を回してきて――
(……もう少しだけ……)
ふっと目を閉じた。




