78.狼の訪問
ーーその夜・ミーナの部屋
窓の外は静かな夜。私は読みかけの本を閉じて、ふとため息をつく。
「……ライグルさん、なんだかお疲れだったな。会えたのは嬉しかったけど……」
殿下がぎんちゃん話をするから、あのもふもふの暖かさを思い出して、寂しくなってしまった。
コツ、コツ……。
突然、窓の外で何かが歩く音。カーテンを開けると――
そこにいたのは、大きな銀色の狼。
まるで犬のようにちょこんと座り、じっと私を見つめている。
「……ぎんちゃん?」
わんこはぺたりと前足を揃えて座り直し、尻尾をふわふわと振った。
「……会いにきてくれたの?」
小さく頷くような仕草を見せるわんこ。私ははそっと扉を開けた。
犬を部屋に入れていいって規則...あったかしら...
「入って。今日は特別ね。だって、会えて私も嬉しいから」
ぎんちゃんは嬉しそうに鼻を鳴らし、すぐに部屋の中に入ってくる。
ベッドの下に入って眠るかと思いきや――ミーナの膝元で丸くなった。
「……そんなに甘えん坊だったっけ?」
私はくすくす笑って、その毛並みと暖かさを堪能した。
わんこは尻尾を一度だけふり、まるで「今日だけだからな」と言いたげな顔をする。
「ふふっ、団長は知っているの?もう遅いし寝る時間よ?」
私はベットに腰掛けながら、声をかける。
「くんっ!」
わんこはわけ知り顔で、頷いているように見える。
「そう、じゃあ、もう遅いし、こっちへおいで?」
寒い季節、わんこがいればあったかい。
私は自然と、ベットにわんこをを招き入れた。
一瞬固まったように見えたけど、甘えるように喉を鳴らして私の隣に丸まった。
私はわんこを抱きしめながら眠りについた。
ーー深夜、ミーナの寝室
……ふと目が覚めた。窓の外はまだ暗い。
ぬくもりを感じる方へ視線を向けると、私の腕の中で、わんこがすやすやと寝息を立てていた。
柔らかな銀の毛並みに、ほんのりとした体温。まるで……
「……なんだか、ライグルさんに似てる気がする。表情とか、寝癖とか、変なとこ律儀なとことか……」
私は小さく笑った。まさかね。
そんなバカな妄想――
でも、こんなふうに一緒に眠れたら、ライグルさんとも。
いやいや痴女か.....
わんこの背にそっと手を添えて、もう一度まぶたを閉じた。
あったかくて、どこか胸の奥がくすぐったくて――
その夜、私は久しぶりに、夢の中でも笑っていた気がする。




