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その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
5章.蜜と毒の幕開け

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76.アレクと遭遇

くだんの緊急会議の帰り道――



騎士服姿のライグルは、王太子アレクセイ殿下の護衛任務中だった。

会議の内容もあって、表情はいつになく硬い。



「……あいつ、ミーナに絡みすぎだろ。それにジュリオ、あいつ……報告になってねぇ」



誰に聞かせるでもなく吐き捨てるライグルに、隣を歩く金髪の青年――アレクセイ殿下は涼しげに笑う。



「まぁまぁ、仲睦まじいのはいいことじゃない? 君のミーナ嬢も楽しそうだったじゃないか?」



「チッ……あんま調子乗ってると、護衛の俺が手ぇ滑らせますよ。マジで」



「おぉ、こわいこわい」

(こいつ、少しも怖がってねぇ……)



言葉の端々に、嫉妬と殺気が滲む。

治安の悪さ、まさに最高潮。



「……ったく。ミーナが……俺のだったらいいのに……最近、会ってねぇし……足りねぇ……」



ぶほっ。


真顔で恥ずかしいことを口にしたライグルに、アレクセイは吹き出しそうになる。



「ぷっ……ははっ、ライ、ほんと面白い。そろそろ“お兄ちゃん”の出番じゃないかい?」



「うるせぇ……!! 余計なことしかする気がしねぇ……!」



そんな応酬をしながら廊下を歩いていた時――

角を曲がった先で、一人の女性がこちらへ向かってくるのが見えた。



ミーナは資料室へ戻ろうと廊下を歩いていたが、曲がり角で二人の姿に気づいて思わず立ち止まった。



騎士服を纏い、肩には王家の紋章入りのマント。

いつもより凛々しく見えるその人に、思わず息を呑む。



「……ミーナ?」



「ライグルさん……」



(あ……お仕事モードのライグルさん、かっこいい……)



その隣にいたのは、見目麗しい金髪碧眼の青年。年はライグルと同じくらい。

ふと記憶を辿る――まさか、あの「王太子殿下」……?



「おや、偶然だね。君がここにいるとは」



にこやかに笑う“レオ”――いや、アレクセイ殿下が、ミーナとライグルを交互に見やる。

何かを察したように、瞳を細めた。



「ほら、ライグル。ちゃんと挨拶しなくちゃ」 



「っ……お、お疲れ様、ミーナ」



(あ、機嫌直った)



瞬時に態度が変わるあたり、わかりやすさ満点。



ミーナはおそるおそる、礼儀正しく臣下の礼をとった。


「ご、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。私、騎士団寮使用人のミーナと申します。アレクセイ=フェルデン殿下……お会いできて光栄です」



深々と頭を下げるミーナの緊張が伝わったのか、アレクセイは柔らかく返す。



「やぁ、ミーナ嬢。初めまして。……まあ、今日は公式の場じゃないし、気楽にしてよ」



(無理、気楽になんて……!)



そんなミーナに向かって、アレクセイはふと口元を緩める。



「ねぇミーナ嬢、団長のとこの“わんこ”、知ってる?」


「……っ、は?」

「っっっ(アレク、やめろぉぉぉぉ……!!)」



呼び捨てにもできず、悶えるライグル。



「えっ、殿下? もしかして“ぎんちゃん”をご存知なのですか?」



「ぶはっ……あ、あぁ。ぎんちゃんね」



ライグルの顔が真っ赤になり、耳まで赤くなっている。



「最近懐いてたって聞いたよ。白くて、大きなオスのわんこ。君にべったりだったとか」



(あっ、あれ、アレクセイ殿下……わんこ仲間……!?)



ミーナは嬉しそうに語り出す。



「ふわふわであったかいし、無防備で可愛くて……すごく、こう……ぎゅってしたくなるんです。ねぇ?」



そのセリフに、アレクセイがライグルの脇腹をこづく。



「……っアレク、てめぇ……!!」



「でも最近会えてなくて……ちょっと寂しいです。また会えたら、ぎゅっとするの楽しみにしてます」



ライグル、限界。



「ひひっ、怖い怖い、仕事中だよ? 護衛殿、お顔怖くなってるよ」



ライグルは言葉を発しようとして、喉まで出かかった何かを飲み込む。



(……ライグルさん、体調悪い?)



「すみません。お仕事中に。護衛、頑張ってくださいね」



そう声をかけて笑うミーナ。


「っ、あ、ああ……任務中だから、また……後で」



「ふふっ」



笑うミーナに、ライグルは赤くなりながら視線を逸らす。


アレクセイが耳打ちするように囁いた。



「ん〜〜、これはまた、わかりやすいなぁ」



「……お、お気をつけて」



ぺこりと礼をして去っていくミーナ。



その背を、ただ見送るしかないライグル。……だが。



「ちょ、ライ? 耳と尻尾出てるから!!」



「……後で。ちゃんと……会いに行くから」


ピクピクと揺れる狼の耳と、ふわふわの尻尾。

それは、彼の心のざわめきを雄弁に物語っていた。


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