72.ジュリオヘタレる
──王都の片隅、借り宿の通りを歩きながら。
ジュリオは、ふっと空を見上げた。
快晴。なのに、気持ちは晴れない。
お見合いのカフェまでついて行き、帰りも護衛?も兼ねて、セリアの後をついて来てしまった。
(……セリアちゃん、地方に嫁ぐのか……)
あのカフェで、楽しげに紅茶を飲んでいたセリアちゃんの笑顔。
思い出すたび、なんかこう、胸がズシンと重い。
(あれって、見合いが上手くいったん……だよな?)
別に正式に聞いたわけじゃないけど、空気で分かる。
それなりにいい雰囲気だったっぽいし、向こうは貴族で育ちも良さそうで、安定した生活もあるんだろう。
(そりゃ……俺なんかよりは、ずっと──)
自分で思って、勝手に落ち込む。
気づけば、セリアちゃんは、兄ヨナスとレンが泊まっている宿へ向かっていた。
セリアちゃんに声をかけようか...
でも何ていえばいい?
(……バカか、俺)
一度、足を止めた。
目の前の宿の窓には、レースのカーテン越しに人影がちらついた気がしたが、気のせいだと思って気にも留めない。
(……セリアちゃん、平気そうだったな)
あんな大事な話の帰りなのに、いつもと同じ調子でさっさと歩いて。強い。いや、強すぎる。
(まぁ、そこが好きなんだけど)
俺はこんなに凹んでるのに……え、セリアちゃんはもう平気なの?
いや、きっと平気なんかじゃない。気丈に振る舞ってるだけだ。
でも、あの笑顔は──……
(……分からん)
やっぱりセリアちゃんに声を掛けようとするが、、どうしてもできない。
勝手に浮かれて、勝手に落ち込んで、勝手に悩む自分が、バカみたいだ。
けど、考えるのをやめたら、それはそれでモヤモヤする。
(……なんでだろ。こんなに気になるの、セリアちゃんが相手だからなんだろうな)
気づけばまた、何歩か進んで戻っていた。
自分でも呆れるほど、挙動不審な動きをしている。
通りすがりおばあちゃんに「迷子かい?」と声をかけられ、「い、いえ、道は知ってます!」と全力で否定して、さらに凹む。
(……だめだ。いったん頭を冷やそう)
けどその前に、もう一回だけ、宿の前を通ってみよう。
それとなく通って、ちょっとだけセリアちゃんが元気かどうか……なんとなく、確認できたら。
そんな言い訳を自分にして、ぐるっと回るようにしてまた戻り始めた。
──彼はまだ知らない。
その窓の奥から、じっと自分を見つめる視線があったことを。
兄の目が、静かに、しかし確かに、彼を“審査対象”として捉え始めていることを──。
セリアが結婚すると勘違いジュリオ




