表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
5章.蜜と毒の幕開け

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/171

71.兄ヨナス視点

ヨナス視点



──騎士団宿舎近くの、借り宿の一室。


午後の光が静かに射しこむ中、ヨナスは湯気の立つ紅茶を前に、ぼんやりと窓の外を眺めていた。



ルドルフと会ってから戻ったセリアは、ほんの少し、肩の力が抜けたように見えた。

無理に何かを押し付けるような空気ではなかった。それが、かえって胸に刺さる。



(……俺は、あいつの何を知っていたんだろうな)



子どもの頃、泣き虫で、着物の裾をよく踏んでいた妹。

兄として、何があっても守ると決めていた。

だが今、目の前にいるのは、そんな“守られる存在”ではなかった。



「私ね、この場所が好きなの」



笑いながらそう言ったときのセリアの瞳。

あれは、取り繕った笑顔じゃなかった。

まっすぐで、揺るがなくて──そして、少しだけ、誰かを思うような光を帯びていた。



──そして、彼の脳裏にふとよぎる、あの男の顔。



(……ジュリオ、だったか)



騎士団副隊長。

軽薄そうで調子のいい男、というのが最初の印象。

だが、それだけではないらしい。セリアのあの態度――自然な話しぶりや、距離感。

何より、彼女が無意識に向ける目の温度。


(……あいつの中に、“ジュリオ”という存在がある)



それを、ヨナスは認めざるを得なかった。



自分の知らない“妹の世界”で、確かに彼は生きている。



ヨナスはひとつ、深く息を吐いた。



(……まあ、まだ認めたわけじゃないけどな)


まだ認めるには早い。

だが、ただの「軽薄な男」と片付けるには、あまりにセリアの反応が“らしく”なさすぎた。



(もしも、あいつが──)



ふと、窓の外に目を向ける。

道を歩く男たちのなかに、ひときわ分かりやすく落ち込んだ背中があった。

誰かに話しかけようとして、二度引っ込み、やっと声をかけたかと思えば気まずそうに逸らすその動き。



(……あれか?)



妙に動きのぎこちない男。

よく見れば、セリアの話に出てきた“あの副隊長”その人だ。



ヨナスは、湯気の冷めた紅茶をひと口含み、そっと目を細めた。



(……まあ、見させてもらうさ)



妹のそばにいる、その男が、

本当に“あいつを泣かせない男”なのかどうか。



兄として――

こればかりは、簡単に譲るつもりはない。


ジュリオ・・ロックオンされました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ