07.寮案内、マチルダさん登場
新しい住まいを、確保!
すみません!!誤って先の先の話をアップしておりました((((;゜Д゜)))))))こちらが7話です(>人<;)
セリアさんがくるりと踵を返し、「じゃ、行こっか」と私を促す。
通り過ぎた背中の方では、ジュリオさんの
「セリアさーん、また冷たい!」
という残念な叫び声が聞こえた気がするけれど……聞かなかったことにした。
「じゃあ次は寮ね。ミーナの部屋、すぐ用意できるから安心して。こっちが女子寮棟で、厨房のすぐ裏にあるの。必要があればすぐ呼べる距離ってわけ」
「なるほど、合理的ですね」
「そうそう。でね、うちの寮の管理をしてるのがマチルダさんなんだけど……」
その名を聞いた瞬間、セリアさんが少しだけ声を潜めるようにして言葉を続けた。
「……まあ、ちょっとだけクセ強めだけど。慣れれば、優しいから。うん、多分」
「……“多分”?」
一抹の不安を抱きつつ、私は厨房裏にある女子寮の方へと足を向けた。
セリアさんに付いて騎士団の敷地内を歩いていくと、これが女子寮はらしい。
厨房の建物をぐるりと回り込んだ先――煉瓦造りの、清潔感ある二階建ての建物。
「基本的に厨房の子たちと掃除係の女の子は、ここに住むの。もちろん、夜勤もあるし交代制だけど、規則はきちんとしてるよ」
「はい!」
ドキドキしながら建物の前に立ったそのとき、正面の扉が開き、グレーの髪をきちっとまとめ、洗練された身なりの中年女性が出てきた。
「セリア。募集を見て来たって子かい?」
「はい、今日から厨房に入るミーナです。紹介状も通って、団長の面接も無事パスしたので、あちこち案内しています。」
彼女は一歩前に出て、私の前でぴたりと立った。
淡いグレイの髪をきちんとまとめ、整った制服を着こなしたその女性――
(うわぁ……ザ・出来る大人……!)
背筋の伸びた姿勢と、澄んだ灰色の瞳。その視線は鋭くもあり、けれどどこか温かみを帯びている。
「ミーナ、と言ったわね。私はマチルダ。ここの女子寮の管理と、使用人全体の指導係よ。厨房以外の掃除や雑務も、必要に応じてあなたたちにお願いすることになるわ」
「はい、ミーナと申します!よろしくお願いします!」
ぴしっと背筋を伸ばして答えると、マチルダさんはわずかに目を細めて微笑んだ。
「……礼儀は悪くなさそうね。いいわ、荷物は? 部屋に案内して、寮のルールも説明しましょう」
「は、はい!……あ、荷物はまだ実家にあって。一度取りに戻ってもよろしいでしょうか」
「…いいよ。行っておいで」
色々心配してくださったのか、マチルダさんは私をわ一瞥しただけでそれ以上追求せず、さっさと先を歩き出す。
「あとで制服を支給するわ。私服でもいいけれど、動きやすくて汚れても構わないものをね。門限は日暮れまで、消灯は九つ(午後九時)。破ったら寮からは追い出す。いい?」
「はいっ」
「あと、夜中にこっそり男の子を呼び込むのは禁止。騎士団の名に関わることだからね?」
怖い笑顔でそう告げられ、私は思わず「は、はいっ」と二回くらい返事してしまった。
(あの団長さんといい、ここの人たち、見た目以上に……本気だ)
でも、その分きちんとしていて、安心できる気もした。
部屋は狭めの1人部屋で、実家の物置に比べれば、ベッドやテーブルがあるだけでもう最高だ。
「何かあればセリアに言うといいわ。厨房と寮、両方に顔が利くから」
「うん、困ったら何でも言ってね、ミーナ」
セリアさんが笑って手を振る。
(……新しい場所。知らない人たち。でも、ちゃんと、歓迎してもらえた気がする)
緊張と不安の中にも、ほんの少しだけ、温かさが胸の中に灯った気がした。
そして、セリアさんが
「少し遅くなったけど、昼食でもどう?」と声をかけてくれた。
マチルダさんも、そっとお盆を準備しようとしてくれていた。(優しい…)
――でも、私は首を横に振った。
「ありがとうございます。帰りが遅くなるといけないので……」
胃が空っぽなのは自分でもわかっていた。けれど、なんとなく、ここでお世話になる前に何かを頂いてしまうのが、気恥ずかしくて。
きっと、甘えてしまいそうだったから。
「……じゃあ、気をつけて帰ってね」
「またね、ミーナ」
マチルダさんとセリアさんのその言葉は、どうしてか、胸に染みた。
実家へ荷物を取りに帰らなければならない。それは分かっているのに、足取りが重い。
新しい場所、新しい人たち。まだ出会ったばかりなのに、ふと、ここが“帰ってきたい場所”に思えてしまった。
(……でも、まだ終わってない。あの家に、最後のけじめをつけないと)
もうあの家に縛られるのはやめる。お母様、許してくれる?
私は、ちゃんと自分で選んだ場所、またここに、帰るために行くってくる。
マチルダさんも、訳ありなミーナの背景を察しました。さすができる女!