62.匂い..つけたい
ライグルさんの部屋は、確かこっち――
扉の前に立った私は、そっとノックをする。
コン、コン――
……返事がない。けれど、中からはほのかに灯りが漏れていた。
「……ライグルさん? 起きてますか?」
恐る恐る声をかけながら、私はお盆を抱えてドアをそっと開く。
「―――ッ」
そこにいたのは、シャワーを浴びたばかりの、前髪を下ろしたライグルさん。寝る前だったのか、ベットに腰掛けていた。
ゆるく首元が開いたシャツ一枚にズボンという軽装で、首元は濡れた前髪がかかり、肌がしっとりと光っている。もちろん胸元の筋肉がチラつく。
セクシーがすぎる!!!?
「……ミーナ?」
その低く落ち着いた声に、思わず喉が鳴る。
私はハッと我に返った――あぶない、焼き鳥丼を落とすところだった。
「えっ、あっ……あの! 焼き鳥丼、作ったんです! 味見してもらおうと思って!」
差し出すお盆。そこには湯気を立てる茶色の丼。たまごがとろりと溶けて、甘辛の香りが漂っていた。
ライグルはそれを見て、目を細めた。
立ち上がり、私をで迎えてくれた彼は、焼き鳥丼ののったお盆を机に置いた。
香りが気に入ったのか、ライグルさんは、私の首元――耳のすぐ横あたりに、そっと顔を近づけてきた。
(だ、だから近いんだってーー!)
「……いい匂いだ。……すごく、嬉しい。」
と呟いた。
(....焼き鳥の匂い?だよね?は、鼻血が出そうだ。。物理で)
ひとしきり,焼き鳥の匂い?を嗅がれたところで、
「……あれ。ミーナ、さっき誰かといた?」
「え?誰も。あ!ええっと……レンさんですかね?東方から来た商人さんで……」
その瞬間、ライグルの目がすっと細くなり、私は口をつぐんでしまった。
「……ふぅん?」
「……!?」
「ちょっとだけど、服にうつってる。……それと、なにかな?これが、醤油の香りかな?」
(ずっと近くで匂いを嗅がれる...)
「すみません、台所でっ、料理しててっ……!まだお風呂入ってないし、匂いますよね...」
(ち、近いってば!!何を謝ってんのか私…臭くてごめんなさい..恥ずか死ねる...)
「あー、いや……嫌じゃないんだ。けど……」
一瞬後ずさろうとした私を捕まえて...
「……ちょっとそのままで、、ね?」
「えっ……?」
その言葉と同時に、ライグルさんが私に抱きついてきた。
片腕が私の背中を強く引き寄せ、もう片方の手はそっと私の髪をなでる。
首元に顔を埋められ、くすぐったいのと苦しいのと、甘いのとで、もうパンク寸前だった。
「……ミーナに、俺の匂い、つけたい」
耳元で囁かれたその声に、背筋がぞくりと震えた。
そう言って、私の首元に顔を埋めてくる。
「ら、ライグルさん!? ちょ、ちょっと、何をっ……!」
そろそろ、私が供給過多でどうにかなりそうです!
私は真っ赤になって焼き鳥丼の存在を思いだした。
「……と、とにかく! それ、食べてくださいっ!」
「!ごめんっ、!いただきます」
私の声で、ハッと我に帰ったライグルさんも真っ赤な顔。机に焼き鳥丼を丁寧に置いた。
ライグルさんは、改まって丼を持ち上げ、ひとくち――
「……美味しい……」
「ほんとですか!?」
「…あぁ……っ、ミーナが俺のために作った飯なんて……これ、罰当たらないか?」
口元にタレをつけたまま、そんなことを言う彼に、私はもうツッコミもできない。
……もう。ほんとに..
ドキドキする心臓をおさえながら、私はなんとか微笑んだ。




