61.どんぶり試作
―――セリアと兄ヨナスの密談中、厨房では…
夕食の片付けが終わり、人気のない厨房で、
私は一人、黙々と米を炊いていた。
白露と醤油をもらったのが嬉しくて、居ても立っても居られず。何を作ろうか、ニヤニヤしていた。
そこへ、にゅっと現れたのは、レンさんだった。
もしかして、セリアとお兄さんが話中だから、こっちに出てきたのかしら?
ふらっと立ち寄ったふうだけど、ちゃっかり居座るレンさん。お米の炊ける香りに寄ってきたのよね?お米好きかと思うと私の口角が上がった。
「こんな時間に一人で?……さては、試作ですか...?」
「はい!どうしても白露とお醤油を試してみたくて。本当にありがとうございます!……あ、もうすぐ炊き上がるので、おむすび、食べてみますか?」
「あぁ、お願いする。ありがとう」
レンさんはふっと笑った。やばいイケメンがすぎる。
しばらくして、ごはんが炊き上がるいい香りがしてきた。私はごはんをよそい、塩おむすびを作る。
そんな様子をみて
私が塩むすびを握る手元をじっと見つめながら、レンはほほえみつつ呟く。
「面白いな。こうして“握る”ことで米がまとまるんだな。……東方にも似たようなものがある。“ちまき”に近いが、もっと平たい形で、竹の葉で包んで蒸す」
「へぇ……!中に何か入れるんですか?
………はい!塩おむすび、どうぞ」
「ありがとう。……うまいな!塩が白露の甘みを引き出して、絶妙だ。」
ふふっ、自慢のおむすびを美味しいと言ってもらえて嬉しいな。
「っ、(微笑む顔もいいな)――中にいれるのは、肉や豆、時には塩辛い味噌のようなものを詰めたりもする。発酵させた豆のペーストに、唐辛子を混ぜてな……“豆板醤”だな」
「豆板醤っ……! 知ってます、それ! ピリ辛でコクがあって、美味しいですよねっ!」
「ふふ……詳しいな。もしかして、シュエンの料理、結構食べてるんじゃないか?」
「い、いえいえっ! 本で……本で読んだだけで……!」
(あ、あぶない!)
レンは怪訝そうに眉をひそめたが、やがて冗談のように肩をすくめた。
「まぁ、味の好みが合うのはいいことだ。……フェルデンの料理は淡泊だと聞いていたが、君の味覚は、東方寄りかもな」
「豆腐とかも、そっちの方でよく食べるんですか?」
「ああ。“豆腐”は、白くて柔らかくて、水分を多く含むあれな。塩漬けにしたり、干して保存したりもする。“湯葉”のようなものもあるぞ。……“味噌”は白っぽくて甘いのが主流かな。鍋にしたり、漬け床にしたり」
「「豆腐とお肉を炒めて、ちょっと辛い料理……そういうのもあるんですか?」
「ぁあ。たぶん“辣豆腐”かな?豆板醤で辛味を出し、甜麺醤でコクをつける。……あと、痺れの“花椒”も忘れずにな」
「わぁ……花椒...最高。シュエンの台所、覗いてみたい……!」
レンがふっと目を細め、いたずらっぽく口元をゆがめる。
「……じゃあ、今度、来てみるか? 俺の故郷に。うまいもん、いろいろ教えるよ」
「え、ええぇ!? い、今のって……」
(な、なんかプロポーズっぽい響きだったけど!?いやいや、単純に誘っただけよね?考えすぎ...恥)
いたずらが成功したときのように、クスッと笑うレンさん。
ちょっと待って。こんなときどうすればいいのーーー汗。私はなんとか笑ってかわしつつ、無理矢理どんぶりメニューを考えた。
レンさんは、少し考えたあと
「じゃあ...ミーナ様..じゃなくて、ミーナ..と呼んでも?」
「はいぃぃ!!?」
距離を、がんがん詰めてくるレンさんに驚き、思ったより大きな声で聞き返してしまった。イケメンすごい。
「うん、じゃあ了承したってことで(クスッ)」
プロポーズ?を断った手前、断り辛い。しかも伏目がちの色気ダダ漏れのお願い顔からの無邪気な笑顔ををみると....名前くらいもういいか...と思ってしまった。
時刻はもう20時前、
「もう遅いからな。また...」
とレンさんはフッと笑って、名残惜しそうに部屋に帰って行った。
そろそろセリアさんの話も終わる頃だろうか...
⸻
レンさんがいなくなり、試作に集中。夢中なあまりどんぶりハイになっていた私は
「夜に食べるとそこそこがっつり丼(仮)」
甘辛のタレが香ばしく焼き鳥に絡み、卵とろとろ、これはもう背徳の味。
焼き鳥丼を作ってしまった。
ごくっ。た、食べたい。
小皿に少し作って味見をする。
お、お、おおいしいーー!!!?
テンションMAXの私は...
この時思い出してしまった。
ライグルさんが先日盛大に拗ねたことを...。せっかくだし……味見してもらおうかな。
時刻は19時半ごろ。
どんぶりハイ状態で、私はお盆を抱え、ライグルさんの部屋へ向かった。




