06.ジュリオ視点
チャラ男ジュリオ(本命にはヘタレ)
俺はジュリオ。
第二隊の副隊長で、地方貴族フレミング男爵家の次男。わりと広めのうちの領地。兄が家を継ぎ、強妻な姉がいる。そこそこ美形で高身長。ハニーブロンドの髪と片耳にピアス。笑顔を振りまく俺は、まぁわりとモテる。
桁違いに美形だか、感情と表情筋が仕事をしない隊長様のおもり、いやフォロー?で、対で行動することが多い。
厨房からの通路を曲がったとたん、
目の前に現れたのは見知らぬ女の子。
セリアの後ろに控えて、小さくなってるけど、雰囲気的に厨房の新入りだな。
(……おお、これは、いい風が吹いた)
と思って口角を上げた矢先――
隣にいた隊長が、一瞬だけピタリと動きを止めた。
(……ん?なんか堪えてる?体調悪いのか?)
しかも
「……おーい、ライグル? おまえ、いま、ちょっと瞳の色変わってなかった?」
コイツは、狼になると黄金色の瞳になる。獣化できることは、俺を含め一部の人間しか知らない。
俺の長年の“女の子レーダー”と“隊長ウォッチャーとしての観察眼”がピクッと反応した。
「ジュリオ、サボるなよ」
その一言も、いつも通りなんだけど。
なんだろうな…
声のトーンが、ちょっと、妙に硬い。
いや、ライグルっていつも無愛想だし、無表情だし、感情が顔に出にくいヤツだ。
感情が表に出にくいだけで、一緒にいるとわずから表情の違いから感情は読み取れる。
だけど、今の“視線の逸らし方”とか、“声の響き”とか――
……なんつーか、「初手から壁を作る感じ」がなかった。
それどころか。
(あれ、なんか、ちょっと見惚れてなかった……?)
しかも二度見したし。
いやいや、まさか。
あの“剣術が全て”みたいな男のライグルが?
いや、あいつ、女の子と目が合って赤くなるようなキャラじゃないし。
そもそも“女の子”というものに興味を持ってる感じ、皆無だった。
「……気のせいだよな?」
それでもなんとなく、気になったから、ふざけつつ会話してみた。
「副隊長としては見過ごせなくてさー? これは人材確認ですよ~」
(チラッ)
……反応なし。
と思ったら、一瞬だけ、視線が戻ってきた。
(あー。これ、完全に“わざと視線外してる”やつじゃん……)
もしかして。
いや、ほんのちょっとだけ、ほんの―――
……ライグル、気にしてる?
でもまあ、その“気にしてる”が「顔に青のりついてた」的な意味かもしれないし。
あいつはよく、細かいところにだけ無駄に気がつく性格だからな……うん。
(ってことで、深掘りはやめとこ)
俺は思考を打ち切って、可愛いセリアとの掛け合いに戻る。ライグルの視線も、ミーナから外れたままだ。
でもなー。
さっきのあれ、
なんか、ちょっと……ひっかかったんだよな。
うっすら目が金になってなかったか?
感情が昂ると獣化することがある、と聞いたことあるが、まさか?な?
ま、いっか。
気のせい、気のせい。
「俺、副隊長。あとは“真面目で優しイケメン騎士”で覚えてくれていいよ?」
俺は笑ってウィンクしてみせる。
セリアが舌打ちしそうな顔してるし、ミーナちゃんは「え、真顔で言うの?」って顔してるし、
ライグルはまた目を逸らしてるし――
うん、みんな、平常運転。
……だよね?