57.発覚?
ライグルは無言で書類を一枚、机の上に置いた。
居室の奥にいた団長ギルバートが顔を上げる。鋭い目が書類とライグルを交互に見た。
「……どうした、顔が怖えぞ。とうとうフラれたか?」
「ゔっ...」
「違います。これ、資料室の整理中に見つけました」
ギルバートが書類を拾い、ざっと目を通す。眉がひそめられる。
「古い……それも、帳簿だな。物資の納入先が不自然に偏ってる」
「はい。通常の調達先ではなく、裏手の倉庫へ回ってるように見えます」
「誰が見つけた?」
「……ミーナです」
ギルバートがふっと口の端を上げた。
「またか。。(隠そうとしてもできないもんだな)」
「俺の目に狂いはありません」
そのとき、扉がノックされて開き、アレクセイが入ってきた。いつもの軽やかな笑顔で入ってくるが、視線はライグルの手を捉えていた。
「やあ、呼ばれてないけど面白そうな匂いがしたから来てみたら……正解だったみたいだね」
ライグルが書類を渡すと、アレクセイは目を細めてそれに見入る。
「ふむ……古い書類に紛れていたのか。普通なら誰も気づかない。資料室の奥なら、なおさらね」
「ええ。彼女はただの整理の一環として発見しただけです」
「“ただの”ねぇ……」
アレクセイがくすっと笑った。
「ライグル、君の伴侶候補はなかなか有能だな。僕としては、もっと彼女を使ってみたくなる」
「使う、とは?」
「正しく評価する、という意味だよ。いい駒は、盤に置かれてこそ価値がある」
ギルバートが腕を組み、少し呆れたようにうなった。
「やれやれ……お前の好みは、どうしてこうなんだか」(普通の女の子...じゃねぇ)
ライグルは無言で書類の一部を指し示した。
「この納品先、“ラン商会”とあります。確か、東方ともつながりのある──」
アレクセイの目が鋭くなった。
ギルバートも、舌打ちする。
「──こりゃ面倒になるかもな。よし、まずは内々に探ってみるか」
「了解しました。ミーナのことは……」
「余計な詮索はさせねぇ。彼女はまだ巻き込まれちゃいねぇんだろ?」
ライグルはわずかに頷いた。
「ええ……今は、まだ」
「ミーナが、また面白い渦を呼びそうだ。」
アレクセイはまた口角を上げて呟いた。




