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その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
4章 日常と秘密

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56.あわやキ、キス?

一方私は、今日も変わらず、厨房に洗濯、掃除と大忙し。


……のはずが、今日はちょっと、様子が違った。



「ミーナ、その髪飾り、似合ってるな!」

「今日、なんかちょっとおしゃれじゃない?」



(う、うぅ……視線が痛い……!)



髪飾りは、前にライグルさんがくれたもの。

かわいくて気に入ってるけど、こういうのってやっぱり目立つんだよね。

でも、あんな風に「お願い」されちゃったら、断れないじゃない。……あの顔、ずるいよほんと。



また見せてくれたら嬉しいけど……。



はあ。どうせなら、仕事ぶりで注目されたいのになあ。。



そんなときだった。



「……ミーナ、お前に頼みたいことがある」



ギルバート団長に声をかけられ、ついていった先は、古ぼけた扉の向こう——



「……これは……何なん、ですか?」



床にまで散乱した紙、崩れかけの箱、剥がれ落ちたラベル。天井まで積み上げられた紙の山が、静かにミシッ……と音を立てた。



「うむ。うっかり溜めてしまってな……どこに何があるか分からん」

団長が頭をぽりぽりかきながら、笑っている。



「で、ミーナに整理してもらおうと思ってな。厨房とは別で、特別手当も出すぞ?」



「(やっった!お手当!醤油も味噌も買っちゃうんだから!)……承知しました。やってみます」



——任されたからには、しっかりやらなきゃ。



この部屋は、どうやら旧記録室らしい。

誰も手をつけたがらず、ほぼ倉庫と化していた。



帳簿、許可証の控え、人事記録、古い出納記録……

誰もどこに何があるのか把握しておらず、「面倒な場所」として放置されていたのだろう。



「でも……こういうの、わりと好きなんだよね……」



前世の社畜時代を思い出す。あの、誰の机か分からないような総務課の書類地獄。

仕分け、ラベリング、処理ステータス別分類、保存年限のチェック……

無言で手を動かしながら、当時の記憶が蘇る。



「保存五年?……こっちは三年? あ、こっちの形式なら、たぶん——」



作業に没頭していると、いつの間にか時間が経っていた。


(気づかないが、外の通路では騎士団員たちがざわついていた)



「う、うそだろ……片付いてる……」

「……おい、あの嬢さん、何者だ?」

「……書類が読める、だと……?」



(中のミーナは、黙々と仕分けを続けている)






「はぁ……こんなもんかな?」



軽く伸びをして、肩を回す。

紙の埃でちょっとむずむずするけど、ここまで片付けば上等だろう。



「んー……でも、なんかさっき、ちょっとだけ違和感……」



一束の帳簿を手に取り、ぱらぱらとめくる。



「こことここ、日付が変だな……処理の流れもズレてるような?」



気のせいかもしれないけど……まあ、厨房に戻ったら忘れるかな。

たぶん、大ごとじゃない。たぶん。



―――



「——いた、やっぱりここか」



「……え?」



扉が静かに開き、見慣れた銀髪の青年が顔をのぞかせた。



「……ライグルさん?」

(うわ、だめ……この前のこと思い出しちゃって、なんか変に意識しちゃう)



「今日、顔見られてなかったから……探してた。

厨房にも洗濯場にもいなかったし。まさか、書類の山に埋もれてるとはな」



「埋もれてませんっ。ちゃんと整理してただけです!」



「ふふ、分かってるよ。冗談だ」



ライグルさんは、少し笑って、部屋の中に一歩足を踏み入れる。

いつもの黒い騎士服。裾に泥が跳ねているのは、どこかからの帰りかな。



「この前は……ちょっと落ち込みすぎてた。ごめん」



「え……」



「お弁当、ありがとう。すごく嬉しかった」



「……それに、その髪飾り。つけてくれてたんだな。似合ってるよ」



「……っ」



耳まで赤くなるのが、自分でも分かった。

まっすぐで不器用な彼の言葉は、時々ずるいくらい、まっすぐ胸にくる。



(やば……ちょ、近い! この前から、急に距離近くない!?)



誰もいない書類室。扉は開いているけど、外に気配はない。



彼は、私の目の前に立っていて……



この距離、この雰囲気……ま、まさか……キス……!?

思考が一気に暴走モードに。



(やばい、話題……話題をそらさなきゃ!)



「そ、そうだ! あのですね、ちょっと気になる書類があってっ」



私は机の隅に置いていた束を慌てて取り出し、ぱらぱらとめくった。



「ほら、こことここ、処理の流れが変じゃないですか? 普通なら、こうなってるはずなのに……」



「……見せて」



ライグルはすっと表情を引き締め、私の手元をのぞき込む。

その眼差しからは甘さが消え、代わりに、指揮官としての鋭さが宿っていた。



「……ミーナ、これは預からせてくれ。俺のほうで確認する」



「えっ、あっ……はい」



(やば……私、話題そらしただけなのに!)



書類を抱えた彼は、ふっと優しい手つきで、私の頭をそっと撫でた。

(撫で……ってぇぇぇ!!)



「無理はするなよ。……あとで、また顔見せて」



そう言って、ライグルは背を向け、部屋を出ていった。



私は、ぺたんとその場に座り込む。



「……だから、無自覚ずるいんですってばーー!!」



……あぁ、あのままキスされても、よかったのに……なんて思ってる自分がいて、赤面するしかなかった。



話題をそらしただけなのに、なんだか変な方向に行っちゃった気がする。

あ、あのまましてもよかったのかな(ライグル談)

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