54.頑張れジュリオ
―――その日の夜
コンコンッ
私はセリアさんの部屋を訪ねた。
シャワーから上がったばかりだったのか、簡単なワンピース姿で、濃い紫の髪がまだ少し濡れている。その姿がどこか大人っぽく、とても素敵だった。
「セリアさん、夜にすみません。ちょっと相談したいことがありまして…」と声をかける
私は、図書館で調べたこと。東方の国シュエンでは、お米が主食で、醤油と味噌も恐らくある。実家の商家を通して買えたりしないか...
相談してみた。
「うん、いいよ。ついでに実家に頼んでみるね、兄に手紙の返事返さなきゃいけないし……」
「ついでに?なにか用があったんですか?」
いつも快活な印象のセリアさんが、言葉を濁すなんて…まさか!うちみたいなクソ家族なの?)
「実は、兄から手紙が来てて……最近返事してないんだけど、また“縁談”の話でさ。しかも今回は、“一度会ってみては?”って」
「貴族で、温厚で、悪い人じゃなさそうって。でも……そういう問題じゃないのよね」
「え、縁談ですかーーー!?」
(ミーナさんは私より2個上の19歳。確かに、縁談が来ておかしくないころだ)
「うん。もし受け入れたら、仕事も辞めて引っ越すことになるし…ちゃんと断らないとって、思ってるけど」
「あ、あの、、ジュリオさんは知ってるんですか?」
「……言ってない。関係ないでしょ、あいつには」
そう言いながら、セリアさんはちょっと拗ねたように顔をそらした。
(いや、関係あるからね!?めちゃくちゃあるからね!?……ジュリオさん、まじでやばいって!!)
私は心の中で警報を鳴らした。―――これは、もう緊急事態だ。
―――翌日
廊下の隅。人目を避けて、私はジュリオさんにこっそり耳打ちしていた。
「だ、か、ら……縁談ですよ、え・ん・だ・ん!!」
あまりの衝撃に、ジュリオさんの頭は混乱しているらしく、口を開けたまま固まっていた。
「え、縁談?えんだん? って、誰の!? セリアちゃんが!? で、相手って誰!!?」
「だから、“貴族の温厚な人”って……セリアさんが言ってましたってば!!」
「マジーーーー!!??」
廊下にジュリオさんの絶叫が響いた。近くを通りかけた団員がギョッとして振り返る。
「で……ミーナちゃん……相手の名前、わかる?」
ジュリオさんが、いつになく真剣な顔で私に聞いた。
私は小さくうなずいて、セリアさんから聞いた名前をそっと耳打ちする。
「ルドルフ……です」
「……調べる」
ジュリオさんの瞳が、いつになく真剣になり、空気が変わった。
きっと...大丈夫だよね?ジュリオさん。
私はその背中を祈るように見送った。




