50.殿下...!!
――― 騎士団本部・厨房
「じゃあ僕、また11時ごろ来るね。……おむすび、楽しみにしてるよ?」
「は、はい。任せてください……!」
そう言って、レオはひらりと手を振りながら、軽やかに去っていった。
見送ってから、ミーナは小さく深呼吸する。
「……さて。ちょっと張り切っちゃおうか……!」
さっそく米を研ぎ、鍋で炊き上げ、塩むすびを握る。
ライグルさんが約束を覚えていてくれたこと。
おむすびの試食が好評だったこと。
色々あって、今日はちょっとだけ特別な気分だった。
炊きあがったご飯の甘い香りに包まれながら、気づけば、簡単なおかずまで作り始めていた。
えぇっと、余りの素材……マイルズさんに許可をもらって、
卵焼き。ウインナー。りんごをウサギ型に切って――
「えーっと……なんか……幼稚園児のお弁当みたい……?」
料理のセンスが不安すぎる。味も見た目も、きっとまだまだだ。
でも、“誰かのために”って思うだけで、いつもの料理がなんだか特別に思えた。
(……ライグルさん、喜んでくれると、いいなぁ)
⸻
――― 11時ごろ、再び厨房
「できた〜?」
にやけ顔のレオが、ふらっと戻ってきた。
「ちょうど今、詰め終わったところです!」
ミーナが弁当箱に蓋をして、包もうとしたその瞬間―
「じゃ、味見――」
「だめですっ!!それはライグルさんのっ」
パシッ!
「……っ」
レオの手が、ミーナに軽く叩かれる。
「レオさんの分は、こっちです!」
そう言って、既に用意していた彼の分の弁当箱を丁寧に差し出した。案内のお礼にと余分に作っておいてよかった。
(その手際と自然さに、一瞬、厨房にいたマイルズが息を呑む)
(……お、おいおい……。ミーナ……あの殿下の手を叩くとか、正体知らねぇのか!?)
だが当の“殿下”はというと、手を押さえながら、どこか楽しそうに微笑んでいた。
「おやおや、痛いなぁ。ミーナ嬢、案外こわい?」
「お行儀悪い人には、です!」
きっぱり言い切るミーナに、マイルズがもう一度ひそかに青ざめたのは言うまでもない。
「はい、じゃあ、ライグルさんの分も持って……お願いします」
「え? 君も行かなきゃ!」
「えぇ?! 仕事中ですし……」
チラッと、レオがマイルズの方を見た。
「ミ、ミーナ!行って差し上げなさい!……お困りだろう?」
マイルズが慌てて言う。
「? は、はいっ。ありがとうございます。では……行ってきます!なるべく早く戻ります!」
ペコリ、と頭を下げる。
「い、いやぁ、まぁ、ゆっくりとな……行ってこい……」
「さぁさぁ、任されたことだし。ニヤッと」
「いざ、仲直り作戦へ!」
レオさんと共に、私は執務室に向かった。




