49.わんこ拗ねる
――― 騎士団本部、朝
執務室の一角。
ライグルは席に座ったまま「ずーん……」と沈没していた…。
朝から周囲がそっと距離を置くほどの陰オーラが漂い
「……あれ、隊長……今日なんか……暗くない?」
「俺、なんかやったかな?怖ッ」
話しかけても
「……何も聞くな。なんであいつが先に食べてる、、しかも手作り...俺と約束したのに」(ボソボソ)
盛大に拗ねていた.....
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7:00、朝練。
「うおおおおおおっ!?いたたたた! ちょ、隊長!?それ反則ぅぅ!!」
――木刀で撃ち合い中、ジュリオはいつもより容赦ない一撃をくらい悶絶していた。
(俺……ミーナちゃんのおむすびを一番に食べただけなのに……!)
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9:00。
朝練終了と同時に、ジュリオがバッタリと倒れこむ。
「俺、今朝で寿命が尽きた……。ミーナちゃんのせいで!じゃなかった、おむすびのせいで!」
だが隊長の機嫌は一向に回復せず、執務室では依然として“ずーん……”のまま。
ジュリオの明るいいじりも虚しく、
10:00書類仕事の手は止まったままだ。
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重苦しい空気の中、 執務室のドアが、ノックもなくスルリと開く。
「やあ、“狼くん”。……落ち込んでるって?」
そこには、こげ茶色の髪に長い前髪。どこかの下級貴族という設定のレオ(アレク)がいた。
にやけ顔の“レオ”ことアレクセイが、悪戯っぽく顔をのぞかせる。
「……来るな…」
「だってさ、弟の拗ね顔が可愛くて、つい見に来ちゃったんだよ?」
「……帰れ」
「おやおや、そんなに怒らないで。あの子に飽きられたってだけじゃないか」
ライグルの顔がますます青くなり、動揺し目が泳いでいる。
クスッ
「じゃあ、“レオ様”として呼んできてあげようか? あの子」
ピクッ
「アレク、お前……ミーナと、そんなに仲いいのか?」
(レオ...確かこいつのミドルネームはレオンハルト。チッ、恋人でもねぇのにレオって呼ばせてんのか..ぁあ?)
あ、ライが切れてる笑笑
「ん~どうかな? 好印象は持たれてるかもね。優しくて、素直で、……ちょっと俺のタイプ?」
「……ッ……。てめぇ、エミリア(アレクの婚約者)に言いつけっぞ……」
「あ〜、それは困るなぁ。僕はエミリア一筋なんだよ?」
「チェッ……」
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――― 騎士団本部・厨房
朝の片付けも一段落し、厨房には穏やかな時間が流れていた。
よしっ!昨日のおむすびは好評!
鍋でうまく炊けたし。コツを掴むためにも、私は今日もスキマ時間でお米炊いていた。おにぎりまた作ってみようかな?何事も慣れ、よね?
あとは醤油があれば...!!レパートリーが一気に広がる。
「醤油を調べに図書館に行きたいんだけど…この前のレオさん…あの人なんだったのかしら」
(まぁ、あの食えない感じ…別にまた会わなくていいんだけど)
そんなことを思っていると、突然、厨房の扉が音もなく開く。
「やあ、ちょうどいいところに」
「――わっ!? レオさん!?」
振り返ると、例のよい性格をしていそうな、茶色髪で長い前髪の青年が、相変わらずにやけた顔で立っていた。
「ふふ、お久しぶり。ミーナ嬢?“ずーん”って落ち込んでる人、見に行かなくて大丈夫?」
「……えっ? 何のことですか……?」
「あのね、第二隊長がずっと落ち込んでて……部下が避けてるくらいよ? 厨房の子たちも噂してたよ。“今日は隊長に近づくな”って」
「……えっ、まさか……ライグルさんが?」
あのクールなライグルさんが落ち込むなんてよっぽどだ。
(ニヤニヤ)
「でね?だからお願い。君のおむすび、食べさせてくれない?」
「は、はいっ?!おむすび!?
う……そ、そうですよね……。確かに……約束してましたし…」
(もしかして、お米?食べたかったの??まさか……でも、あの帰り道の約束……覚えてたってこと?……)
私は約束を覚えてくれていたことが嬉しくて、嬉しくて、心の奥がふわっと熱くなった。
……顔、赤いかも。誰にも見られてませんようにっ
「おっ、素直でよろしい。……じゃあ僕、案内してあげる。今あの子、執務室で一人だから」
(……“あの子”って、ライグルさんのことよね? え、親しいの……?)
「えっ、でも……ライグルさんと、レオさんって……そんなに親しいんですか?」
「まあね。あいつ、俺にはけっこう懐いてる方じゃない? ――ふふ、羨ましい?」
「……?」
(なんだろう、やっぱり……ちょっと変な人……でも、悪い人じゃないような……)
「じゃあ、おむすびの準備お願いね?狼くんに笑顔を取り戻すミッション、開始だ」
色々気になりつつ、まずはおむすび作りに集中することにした。
拗ねて治安悪目な言葉使いのライちゃん。噛ませ犬ジュリオ。




