48.噂の...ジュリオ登場
炊き立ての米の香り、干物の香ばしさ、煮物の甘辛い匂い――
ちょっとした料理場が、ふんわりとした幸せな空気に包まれ始めたころ。
トン、と厨房の扉が開く音がして、
「……なあ、ミーナちゃん?セリアちゃん?」
(えっ、ジュリオさん!?)
「このへん通ったらさ、なんかこう、幸せの香りがするというか?……誘われちゃってさ、足が勝手に」
(それはセリアさんを追っかけてたからじゃないの..?クスッ)
「ジュリオさん、ほんと鼻がききますよね。」
(セリアさんが厨房にいると、すぐ現れる気が……)
私は疑いのジト目でジュリオさんを見た。
「ちょっ、ミーナちゃん!?ちがうってば、たまたまだって!」(耳が赤いジュリオさん)
「だからさぁ〜あれ?……なんだ、それ?」
「おむすびです。少しだけ試作してて……まだ作れるので、よかったら食べてみますか?」
「うん!食べたい!ありがと」
私はジュリオさん用に、塩、魚、鶏肉3種のおむすびを作っていく。
今は3時ごろ。
気づけば、ちょうど朝番を終えた団員さんや、これから夜勤前の団員さん。当直明けの方。匂いに釣られてお腹を空かせた人や、軽食代わりに気になる人が厨房を覗いていた。
「はい!できました!食べてみてください?」
「味は保証するわよ、ジュリオ!ありがたく食べてよね?」
「はいはーい!セリアちゃんが言うなら間違いないよね〜、じゃ、、パクっ」
「うまっ……なにこれ、中に魚? あれ、こっちは肉だ……!塩のもシンプルに美味いな」
ジュリオさんの思いの外素直な感想に、私とセリアさんは目が合ってクスッと笑った。
「これ、ミーナちゃんが作ったのか?白い粒のあれって、こんなに美味かったのかよ……」
おおおおおおー!!
「俺も!食べてみていい?」
「夜勤前の軽食にちょうどいいわ」
「?油脂に包めば持っていける?」
「2個もらっていい?腹、減ってたんだよな~」
その後は、どこからともなく声と手が伸びてきて
5合分が一瞬でなくなった。
あっという間に器の上のおむすびが消え、空になった鍋を見て、私はちょっと呆然とした。
(……もう、ない……?)
だけど、みんなの幸せそうな顔を見たら、つい口元がほころんでしまった。
そんな私にセリアさんはボソッと呟く。
「……ふふ。ジュリオ、本当に嬉しいとちょっとテンパるんだよね。自は素直なのよ笑」
「プッ、(顔を赤くして吹き出しそうになるジュリオ)うわ、聞こえてるってセリアちゃん~~~!!」
はいー!姐さんたち、今日もご馳走様です!
――――――
その日の夜
「なぁ、お前食った?あの“白い粒のやつ”、マジでうまいんだよ」
「厨房の女の子が作ってたやつ?あれ、またやんねぇかな……」
早速噂になり、ライグルの耳に届くのだった。
「....俺...まだ食べてない....」
もちろん拗ねた狼....
「あ、やべッ、俺もしかして、あいつより先にミーナちゃんの手料理たべちゃったっスね……詰んだ」
またシバかれる………
覚悟を決めたジュリオだった。
――――――




