46.米を炊く
「ふふふっ…米、米が手に入った…!!」
ライグルさんとの買い物で手に入った5キロの米を眺め、私は自室でニヤニヤしていた。
これで、念願の米が食べれる…!!
どんぶりも食べたいけど、そのためには醤油、味噌なと調味料がいる。これは追々調べるとして...まずは米、これだけでも、かなり嬉しい。
……次の休みに試してみようかな。午後なら厨房を少し借りれるかもしれない。マイルズさんに聞いてみよう。
―――次の休みの日
時間は14時ごろ。
隙をみて料理長のマイルズさんに聞いてみる。
「あの……この前お願いさせていただいた件で…厨房、少しだけお借りしてよろしいですか?夜の仕込みまでには終わらますので」
「まあ、昼の片付けは済んだし、少しなら構わんよ。何を?」
「米を炊いてみたくて。ちょっと、試してみたい料理があるんです」
「おぉ、そうか、やってみな」
「ありがとうございます!!」
私は早速、厨房の片隅に置いた、取っ手付きの重たい鍋を持ってきた。
そこには、1時間ほど浸水させておいた白米と、慎重に量った水が静かに佇んでいた。うん、セリアさん、マイルズさん、それに厨房の皆さんにも食べてもらえたら嬉しいから…まずは5号炊いてみよう。
そっと鍋の蓋をかぶせ、小さなコンロに火を点ける。
「最初は強火……沸いたら、すぐに弱火に……」
呟くように確認しながら、鍋の中に集中する。
前世の知識を頼りにする、見よう見まねの炊飯。だけど、真剣そのものだ。
片付けは済んでも、まだ何人かは残っている。
私が何をし始めるか気になるみたいで、調理場の皆さんが気にかけてくれる。
「こんな時間にどうしたの?」
「何か試すのかい?」
「はい。ちょっと、前に見つけた米を、炊いてみたくて……」
「米?……ああ、あの硬くて白い…鳥も食べないってやつ?アンタ、変わってるねぇ」
なんて話をしながら、1人2人休憩に行き、やがて誰もいない静かな空間に、くつくつ……と小さな沸騰音が響き始めた。
「……来た」
沸騰した瞬間を見逃さず、私はすぐに火を弱めた。
くつ、くつ……と静かに米が踊り、蓋がかすかに揺れた気がした。
蓋との僅かな隙間から湯気がもれ、あたりに甘い香りが広がっていく。
炊き上がりの合図は、音と匂い。そういえば昔、宿泊学習で炊かされたことがあったっけ……。
「……音が変わった」
水分がほぼ飛んだとふんで、火を止めて布で包み、蒸らしに入る。
「焦げてませんように……」
静かに願いながら、しばしの待ち時間。
10分ほど経った後、そっと蓋に手をかける。
重たい鍋の蓋をそっと持ち上げると、もわっと甘い湯気が立ちのぼった。
それは懐かしい、胸の奥にしみ込むような香り。
「……わあ……」
思わず声が小さく漏れた。
中には、ぴかぴかと光る白い粒がぎっしり詰まっていた。ふっくらと立った米は、まるで宝石のように炊き上がっている。
十字にヘラを入れ、天地を返すと、湯気と共にお米の甘い香りと少し焦げた香ばしいおこげの香りが立ち上った。
熱い……けど、今、どうしても食べたい!
私は、一口とりわけ、味見のため、そっとご飯を口に運んだ。
もちり――。
舌の上で、ほろりとほどける甘み。
噛むたびに、やさしい旨味がじんわりと広がっていく。
「……おいしぃぃぃ……!」
前世ぶりの美味しさに感動し、ふわっと目の奥が熱くなる。
もちもちとした食感。口の中でひろがる、やわらかな甘み。記憶の中の味が、確かにここにあった。
「やっぱり、いいわね……お米って」
自然と、唇の端が綻ぶ。
誰もが、これを食べたらきっと驚くだろう。
――そう思える確信のある味だった。




