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その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
3章 じれじれ期突入

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45/171

45.言えなかった告白

3章ここまでです

〈ライグル視点〉


「……言えなかったな」

澄み切った星空を仰ぎながら、俺は小さく呟いた。あの穏やかな笑顔を見ていたら、どうしても口にできなかった。 



寮まで送ろうと、ベンチに腰掛けるミーナに差し出した自分の手を見たとき……狼姿の自分を思いだした。



俺は正体を隠している、こんな卑怯な俺を、ミーナは許してくれるだろうか……



ミーナがふとした拍子に見せる、あの優しげな瞳。

どこか、母に似ていたのかもしれない。

だから俺は……余計に、踏み込めなかった。





獣人王の血を引く者。

ライグル・ヴァン・ゼリオン



獣人の国ゼリオンの第一王子。

それが俺の生まれだった。



母はフェルデン国王女、現王の姉。ゼリオン王に正妻はいたが、なかなか子ができず、友好の証として母は側妃として嫁いできたらしい。



人間にとっては、獣人は“異質”で“恐怖の対象”になる存在。両国の未来ために。そんな中、嫁いだ母は芯の強い、優しい人だった。



父は母にも俺にも無関心。仮にも友好のための輿入れなら、母を気にかけるべきなのに。正妻の手前か、感情がないのか…最低限の衣食住には困らなかったが、愛情を感じたことはなかった。



物心ついたころには、後継になるべく俺は教育され、ただ寝て起きて、授業を受ける。たまに母に会えるのが嬉しくて。母に会うために、そんな変わらない日々を乗り切っていた。



「正妻の奥様がいるのに...」

「だから人間は...」

子どもながらに、使用人や屋敷の雰囲気から、母と俺が疎まれていることはわかっていた。人間はまだの国には珍しいし、半獣人も滅多にない。または、いても肩身が狭い。数少ない人間にあえば、狼王家特有の黄金の瞳や獣の血を気味が悪がられる。



人間でもなく獣人でもない…それが俺だった。



真冬なのに、隙間風が吹く部屋で…身体を壊さないほうがおかしい。



特に正妻に子ができて、俺の3つ下に弟カイグルができたころから、扱いはひどくなった。俺への後継教育は続けられたが、食事に毒が入っていたり、刺客に命を狙われることもあった。半分獣だったから、俺は生き延びたのかもしれない。



俺の成長とともに、日に日に母は弱っていき。とうとう俺が10歳になるころ、



「あぁ、私のかわいいライ……さぁこっちへ来て…あなたのその瞳…きっと美しいとわかってくれる人が現れるわ。愛してる……

あなたを置いて……先に逝く母を許してね…」



母からは優しさと強さをもらったのに、何も返していない…そのまま微笑みながら…母は帰らぬ人となった。



そして、母の死後しばらく経ち、また俺の部屋に刺客が来た。応戦のために獣化したとはいえ、まだ子犬。



そのとき俺を攫ったのは、刺客ではなく、フェルデンの密偵だった。

…そう気づいたのは、たどり着いた先で叔父――母の弟、フェルデン王と対面したときだった。



獣人国に嫁いだ姉を憂い、探っていたが力及ばず。

母の死去に伴い、俺の身を守るため、死んだと偽装させ、人知れずフェルデン国に連れていたらしい。



(もっと早く母を攫ってくれたら...国の都合なんてクソくらえだ。結局は虚しさしか残らない...)



「フェルデン国からしても、俺の存在は公にできなかっただろう。王位後継者が増えたうえに、獣人の血を引いているなんて……」



そんなこんなで、俺はギルバートの遠縁で、剣の覚えがいい将来有望な田舎貴族の子、ライグル・ヴァーレンとして引き取られた



獣人であること

狼になれること



それは誰にも言えない……





「……あそこで、言えばよかった...のか?いや、無理だ」

苦笑とともに、小さくため息を吐く。



彼女が笑ってくれるのが嬉しくて、可愛くて、つい目を奪われて──

何も本題を切り出せないまま、時間が過ぎてしまった。


俺は生まれてきてよかった…のか?...だからこうして今日ミーナと会えたのか…


母の人生せんたくは間違ってなかった…


ミーナがそう言ってくれたような気がした。





「ずるいよな、俺」




隠してるくせに、そばにいたいなんて……

なんて都合のいい、甘ったれだろうな、俺は。

でも――今はまだ、この距離だけは、守りたかった。




「うぅっ……」


また…か?

最近コントロールが効かない(……このままじゃ、また)



「……もうすぐ…あの季節か……」



闇に向かって、誰にも聞こえぬように呟いた。



優しい人は、いろんな裏側を見てきて、人一倍悲しいことを経験した、傷ついたことがある人だよ、っていうのを書きたかったのです(T . T)

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