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その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
3章 じれじれ期突入

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42.ライグル視点

市場の片隅、いつもは閑散としている穀物屋の前で、ミーナが足を止めた。


「……あ、あった!」


布袋に入った、白い粒――ほとんどの人が見向きもしないそれに、彼女はまっすぐな目を向けていた。



初任給で買うつもりだったらしく、店主と相談しながら、丁寧に重さを選んでいた。値段に関係なく、彼女の手にかかれば、きっと大事な宝物になる。

見ているだけで、胸の奥がほのかにあたたかくなった。



初めは3キロのつもりが、荷物持ちの俺がいれば5キロでもいい。どんぶりどんぶり〜♪



心の声が洩れ聞こえる

 


「米、俺にも食べさせてね?」



セリア嬢やマイルズ料理長の中に、俺も入れるだろうか?まぁ、筋肉が役にたって何よりだ。……今は。ミーナの特別になれたらいいな…と思った。


 

そんな折、ふと風に乗って、香ばしい匂いが鼻をかすめた。

ちょうど昼時だ。ミーナのお腹も、ちょうど良い具合に鳴ったらしい。


「……いい匂い。何か、焼いてます?」



「ん。あの角を曲がったところに、よく来る食堂があるんだ。行ってみるか?」



目を輝かせたミーナが、こくんと頷いた。



「はい、ぜひ!」


まるで子どもみたいに素直な反応をされると、誘った側まで楽しくなってくる。


 

案内したのは、煉瓦作りの素朴な店――まるまる亭。

木の温もりが落ち着く場所で、俺のお気に入りでもある。



「ここだよ。味は保証する」



店内に入ると、奥からおかみさんが顔を出して、俺を見るなりニヤッと笑った。



席につくと、ミーナに聞こえないくらいの小声で、



「……あら、ライちゃんじゃないの。女の子連れて来るなんて、やるじゃないの」



と声をかけてきた。



耳が熱くなる。慌てて目を逸らすと、ミーナはきょとんとしていた。……聞こえてなかったなら、まあよし。


 

「そちらのお嬢さん? 初めてなら、うちの“まるまるランチ”がオススメよ」



メニューを手にして、ミーナは真剣に悩む。



「わあ……どっちも美味しそう! ライグルさんはどうします?」



「俺は……グラタンとパスタ、一つずつ頼もうか」



「はい! それで!」



パッと花が咲くような笑顔。今日だけで何回目だろう、こうして心を奪われるのは。

 


料理が運ばれてくると、ミーナは嬉しそうに、グラタンをじっと見つめていた。



スプーンを入れる手も慎重で、出てきたじゃがいもやきのこを見て、目を丸くしている。

その様子を見てると、俺のほうまで幸せな気持ちになってくるから不思議だ。



「……スープも、ふしぎ。酸味は控えめなのに、深みがある……」



「トマトをローストしてるらしい。焦げの香りを少し残すのがコツなんだって」



「へぇ……!」



感心して頷くミーナの目がキラキラしてて、なんかもう、つい口元が緩んでしまう。

俺の分のボロネーゼも、取り皿に分けて差し出した

 


食後のデザートを訊いてみたら、目を輝かせて迷っている。



「じゃあ、両方頼もう。俺も甘いの、好きだからさ」



本当は甘いものは苦手だ。食べられないわけじゃないが、自分では頼まない。……柄にもなく、つい嘘をついた。



ミーナは「えっ、いいんですか!?」と驚きながらも、嬉しそうだった。


 

そして、デザートが運ばれてきて――ミーナが夢中になってパフェを食べるその姿が、もう、かわいくて……


ふと、目が合った。

その瞬間無意識で


「……ケーキも食べてみて?」



ごく自然な流れで、自分の手元にあるシフォンケーキをすくって、ミーナの口元に差し出してしまった。



「えっ!? え? ……!」


ぱくっ。



条件反射みたいに食べたあと、ミーナが真っ赤になってるのを見て、心臓が跳ねた。


(……しまった、やってしまった)


でも、その後も何度も「はい、あーん」を繰り返して、ミーナがパフェに逃げても、ちゃんと捕まえてしまう自分がいる。



ミーナがふと、仕返しのように小さく切ったケーキを俺に差し出した。



「……じゃあ、今度は私が。ライグルさん、あーん、してください」



「っ……」


ぱく、と口に入れる。

(こ、これは……される側の威力、想像以上だ……!)



甘すぎない、上品な紅茶の香り。


「……思ったより甘すぎない。美味いな」


さっきまで涼しい顔してあーんしてたはずの俺が、今はなんとなく、グラスの水に逃げていた。


ふと横を見ると、ミーナが笑っていた。

こっちまで、つられてしまうような、穏やかでやさしい笑顔。



カウンターの奥、おかみさんが俺たちを見ながら、ふっと微笑んだのに、気づかないふりをした。


「……ふふっ、――あの子、ほんとに大事にしてるのね」


まるで母親のような声が、店内にやわらかく響いていた。


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