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その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
3章 じれじれ期突入

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41.食堂で

米を買い終えたあと、ふと、いい香りが鼻をくすぐった。時間はもう12時前、お腹も空いてくる頃だ。



「……いい匂い。何か、焼いてます?」



「ん。あの角を曲がったところに、よく行く食堂があるんだ。行ってみるか?」



ミーナは目を輝かせた。



「はい、ぜひ!」

(もしかして、ここが……“食堂”!?)



ライグルさんが案内してくれたのは、煉瓦作りの素朴な建物。木の看板には、手書きの文字で「まるまる亭」とある。



「ここだよ。味は保証する」



連れられて入ったのは、木のぬくもりを感じる落ち着いた食堂。

店内には陽の光がやわらかく差し込み、席ごとに小さな花瓶が飾られている。



窓際の席に私たちは腰を下ろした。



「――いらっしゃ……あら、ライちゃんじゃないの」


 

カウンター奥から顔を出したおかみさんが、メニューを持ってきてくれた。そして、ミーナを一瞥したのち、黒髪に変装したライグルさんを見て微笑んだ。




「その髪でもわかるよ、あんたの顔は。まったく、女の子連れて来るなんて、やるじゃないの」




「っつ……おかみさん」



耳を赤くして、ミーナから目を逸らすライグルさん。おかみさんは小声で何かライグルさんに言っていたから、ミーナには聞こえず、きょとんとしていた。



「そちらのお嬢さん?初めてなら、うちの“まるまるランチ”がオススメよ」



◆ランチメニュー:

・じんわり沁みるトマトスープ

・自家製ライ麦パン

・地元野菜のサラダ

・選べるメイン(ベーコンとジャガイモのグラタンまたは牛肉のボロネーゼパスタ)


 


「……わあ!どっちも美味しそう!ライグルさんはどうします?」



「あぁ、美味しそうだ。じゃあ、グラタンとパスタを一つずつ頼んで分けようか?俺、こっち半分あげるからさ」



「はい!それで!」



――――――



やがて料理が運ばれてきて、ミーナは、あつあつのグラタンを見つめてうっとりしていた。カリカリに焼けた香ばしいベーコンと、とろけたチーズにスプーンを入れると、中からほくほくのじゃがいもときのこが現れる。



暖かい湯気の向こうに、微笑むライグルさん……幸せすぎる……

実家では、冷たくて当たり前、カビるか腐る直接の固いパンにうっすいスープだったころが遥か遠くに感じる。



「スープも……ふしぎ、酸味は控えめなのに、深みがある……」



「トマトをローストしてるらしい。焦げの香りを少し残すのがコツなんだって」



ミーナが感心して頷くと、ライグルはうれしそうに微笑んだ。

(美味しいものを、一緒に美味しいねって言えるのって……いいな)



ライグルさんは、牛肉のポロネーゼを頼み、食べ始める前に取り皿に私の分、と言ってとり分けてくれた。

(まじでおかんレベルだ。優しい)



大変美味しくて、幸せな気持ちになったところ、ライグルがそっと言った。



「……デザート、どうする?」



「えっ、あるんですか?」



「あるよ。今日のおすすめは、苺チョコパフェと紅茶のシフォンケーキだって」


 

「え、どうしよう……どっちも気になる……」



ミーナが本気で迷っていると、ライグルが笑った。



「じゃ、両方頼もう。俺も甘いの、好きだからさ」

(?食堂じゃあんまり甘いもの食べてないんだけど)


 


テーブルに運ばれてきたのは、背の高いグラスに盛られた苺とチョコのパフェと、ふわふわの紅茶シフォンケーキ。


(見た目だけで幸せになれそう……!)

 


「ミーナ、どっちを食べる?」



「んー……じゃあ、パフェを……ありがとうございます!」



今世初のパフェに、ミーナは大興奮だ。

スプーンで、パフェを夢中で食べ進めたところで――




あれ?ライグルさんはケーキにまだ手をつけていない。ふとミーナは手を止めた。




「ん?どうした?ケーキも食べてみて?」

すると、ライグルさんが、ごく自然にミーナの口元に、ケーキをすくったスプーンを向けてきた。


 

「えっ!?え? ……!」



ぱくっ。



ほぼ条件反射で口元に、あったケーキを飲み込んでしまった...!!




「どう?美味しい?」



「~~っ!」



ミーナは顔を真っ赤にしながら、首を縦にぶんぶん振った。


 

それから、あーん攻撃を避けようとしてパフェに集中するも、



ちょうど息継ぎのいいところで 


「はい。あーん」

 


が来て



パクリ。



がずっと続くのであった。


(だ、だめだ……! こんな雰囲気、完全にデート……!)




シフォンケーキはなかなか減らない。ライグルさん自身はあまり食べていないからだ。



私に遠慮なく食べてほしい。それに、ふと仕返しを思いつき、ライグルの手元のシフォンケーキを小さく切って、彼に差し出した。




「……じゃあ、今度は私が。ライグルさんあーん、してください」

(どうよ?私だって平気なんだから!?)

 


「っ……」



ぱく。



「……思ったより甘すぎない。美味いな」

さっきは平然とミーナにあーんしてたのに。そう言って、照れ隠しのようにグラスの水を飲むライグルさんの横顔が、嬉しくて――




ミーナは、そっと笑った。


 


食堂の片隅で、デザートを分け合う二人の姿を見て、おかみさんがくすっと笑う。


 

「ふふっ、――あの子、ほんとに大事にしてるのね」


 

まるで、見守る母親のように。


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