04.すれ違いと軽口
ついにヒーローと初接触。
団長との面接を終え、セリアさんに連れられて厨房の外へ出た瞬間、私は一気に肩の力が抜けてしまった。
「お疲れさま、ミーナ。……怖かったでしょ?うちの団長」
「……はい、めっちゃ怖かったです……。でも、ちゃんと話を聞いてくれたから、よかったです。きっと騎士団の仕事に誇りをもっている故、ですよね?」
「もちろんよ!ふふ、そう言えるなら大丈夫ね。団長、見た目はアレだけど、根は真面目で優しいから」
私の腕をぽんと軽く叩きながら、セリアさんはにっこり笑う。
「じゃ、これから寮のこととか説明しよっか。あ、今ちょうど騎士たちが訓練から戻ってくる時間かも。騎士団寮の方、通ってくから、通り過ぎたら挨拶しとこうか?」
そう言われて通路を曲がった瞬間――
――ん? 早速誰か来た?
向こうから歩いてきたのは、騎士団の制服を着た青年。
銀髪に、銀色に金の光を宿したような瞳。
鋭さを感じる整った顔立ち。
前世でいうとこの「銀髪イケメン騎士様ーー!?」
思わず、私は息を飲んだ。
青年も一瞬こちらを見た?気がした。
けれどその視線はすぐに彼の後ろに向き、
「ジュリオ。……サボるなよ」
「やだなあ隊長、今ちょうど戻るとこですって!」
そう答えたのは、彼の隣にいた、チャラそうな軽口で、派手なハニーブロンドの髪を軽く乱した、色男然とした青年だった。気怠そうな笑みと無駄に整った顔立ちが相まって、誰がどう見ても“遊んでます”な雰囲気だ。
彼はすぐに私に目を向け、にっこりと笑いかけてきた。
「おや、これは見かけないお嬢さん。厨房の新入りさんかな?」
「ジュリオ副隊長、ナンパは厨房の外でお願いします」
鋭いツッコミをするセリアさん。いつものやりとりなのかな?2人の応酬に、思わず私はほっと笑みが溢れた。
「いやいや、これは“人材確認”ってやつですよ? 厨房に麗しき花が咲いたとなれば、副隊長としては見過ごせなくて――」
「さすが、“遊び系チャライケメン”」
(セリアさんがボソッと呟く。ヒィッ!体感温度温度下がったよね??誰も感じないの?)
セリアさんの絶対零度の視線と呟きにもめげないジュリオさんは
「うっ……! その視線痺れる…。たまらない…。でも、え?それってつまり……セリアさん、俺のこと“イケメンって思ってくれてるてことだよね!?」
「“遊び系チャラ男”がメインでしょ、そこ削らないで」
「ですよねーッ!」
(……なんだろう、この空気。どこか、仲がいいようで、そうでもないようで。セリアさんの耳が赤いような?)
なんとなく見慣れない空気感に戸惑いつつも、2人の空気感が微笑ましく、口元がゆるんだまま、私はぺこりと頭を下げた。
「……あの、よろしくお願いします」
勝手に盛り上がって勝手に撃沈しているのか喜んでいるのかわからないジュリオさんにご挨拶をしつつ、
私はこっそり隣のイケメン騎士さんを覗き見た。銀髪に、銀色の瞳。よく見ると金色のような綺麗なグラデーションの瞳だ。
私を一瞥したその瞳が、まるで何かを計るようにわずかに細められ――
でも、すぐに興味を引っ込めたように目線を逸らされた。(何ーー?歯に青のりでも付いてた?私?)
セリアさんが軽口をしまい、イケメン騎士さんに私を紹介してくれる。
「コホンッ、……ライグル様。こちらは新しく入る厨房の住み込みの使用人、ミーナです。先程団長の面接を受けてまいりました。」
「初めまして。ミーナと申します。よろしくお願いいたします」
本人は意図せず、しかし綺麗な所作に何か訳あり感を察する3人だが、誰も口には出さない。
「あ、あぁ。中央騎士団・第二隊の隊長のライグルだ。厨房に住み込みか。……珍しいな。よろしく頼む」
淡々とした声だったが、どこか引っかかる響きがあった。
ジュリオがすかさず肩をすくめる。
「俺たち、いつもお世話になるからさ、仲良くしとこーね。……ちなみに俺、副隊長。あとは“真面目で優しイケメン騎士”で覚えてくれていいよ?」
「……自分で言う?」
セリアの手厳しいツッコミが飛ぶ。
「まぁまぁ、いいじゃん。俺、ちゃんと自覚あるんだよ?自分の属性。“遊び系チャライケメン”って自分で言っちゃうのもまたチャームポイントなんで?」
そう言ってジュリオはミーナの方に向き直り、冗談めかしてウィンクする。
(セリアさんの顔が赤い。これってもしかして?アラフォーの勘が騒ぐ)
「……厨房に住み込みか。……そうか、よろしく。」
そう言ったライグルの目が、一瞬だけ、またこちらを見た。
(……なんだろう、あの人。私の顔が地味すぎて認識できなかったのか?歯海苔なの?)
そう。ミーナは、恋愛についてはちょっと残念な令嬢だったのである。
ジュリオとセリアの微笑ましい軽口に、つい口元が緩んでしまうミーナの笑顔から目が離せないライグル。もう落ちてるなこれ笑。