表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
3章 じれじれ期突入

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/171

39.ライグル視点

♦︎ライグル視点


「リボンか……であれば、あちらに向かって歩こうか。市場の北端に、確か雑貨店があったはずだ」



――本当に、かわいい………照



彼女の明るい返事に思わず目を細める。手を繋いだことがそんなに緊張することなのかと、少しだけおかしくて、でも同時に胸の奥がくすぐったくなる。



もちろん、今日のデートは突発的なものだった。だが、こういう展開もあるだろうと、事前にジュリオから情報を集め、何軒か雑貨屋や宝飾店をリストアップしておいた。俺にしては上出来な方だ。相手が彼女じゃなければ、ここまで入念には動かなかったかもしれない。



彼女にとって、今日は初任給の日。

ただ護衛するだけではなく、ささやかな“記念”を贈れたらと思っていた。


――そういう気遣いに、気づかれなくても構わない。気づかれたら……少し照れるだけだ。



「ここか。入ってみよう」



ガラス戸を開けた瞬間、色とりどりのリボンや髪飾りが視界に飛び込んできた。柔らかな香りと、光の粒が弾けたような空間。普段なら足を踏み入れない場所だが、不思議と心地よさすら感じる。



「わぁ……すごい、種類がいっぱい……!」



ミーナの目がきらきらと輝く。

その様子を見るだけで、今日ここに来てよかったと心から思えた。



「ふふ、楽しそうだな。彼女には、どんな色が似合う?」


何気ない問いに見せかけて、本音は別のところにある。


――彼女が、誰かのために何かを選ぶとき、どんな風に考えるのか知りたかった。

相手を想って悩んで、選んで、満足そうに微笑む――そんな表情を、もっと見ていたかった。


ミーナは真剣な顔で選び、深紅のベロアのリボンを手に取った。


「これにします!」


小さく頷いて、会計に向かう彼女。その背中を見送っていたとき、ふと――視線の先で、彼女がぴたりと動きを止めた。


……目を奪われていたのは、コーム型の髪飾り。

銀色の繊細な細工に、やわらかな黄金色のガラス。

派手すぎず、でも確かな存在感がある。どこか、彼女自身に重なる。


(……気になるなら、手に取ればいいのに)


けれど、彼女はそっと目を逸らし、また別の棚へと向かっていった。

値札を見たのだろう。今日の予算では難しいと、自分に言い聞かせたような仕草だった。



思わず口が動いた。


「……で、ミーナ? 俺も何か買っていいかな?」


きょとんとした顔。

……いや、変な意味じゃない。

けれど、返ってくる反応が想像よりずっと可笑しくて、口元が緩む。



「……こ、これっ……」



そう。彼女がさっき見つめていた、あの髪飾り。

黙っていてもよかった。でも――どうしても贈りたかった。だって俺の髪色と、本当の瞳の色を思わせる一品だったから…



「うん。今の髪型にも似合いそうだし、いつものお団子にも合うと思って……どうかな? ――ほら、初給料のお祝いと今日の記念に。贈らせてくれないか?」


できるだけ自然に言ったつもりだった。

でも、彼女の目がまんまるになって、頬が少しずつ染まっていくのを見て、内心少し焦る。



(……やっぱり、少し唐突すぎたか?)



「……私に?」



「……あぁ、君に似合いそうだと思って」



本当のことだ。

最初から、誰に贈りたいかなんて決まっていた。

自分の色を、含んだ装飾品や服を異性が身につけるとこは……仲の良い恋人か婚約者、夫婦がすることだ。



ミーナは知っているだろうか…

変な虫よけと、俺のただの独占欲を...



そっと、彼女のこめかみに髪飾りを近づける。

至近距離で見つめる横顔は、期待と緊張と――少しの戸惑いに揺れていた。



こんな表情、誰にも見せていないだろう。

……そう思うと、胸が高鳴った。



「今つけてもいいか?」


思わず聞いてしまった。もし断られたらどうする気だったのか、自分でも分からない。



「え、はいっ……」


その返事を聞いた瞬間、まるで背中を押されたような気がした。

彼女の髪に、そっと手を伸ばす。



やわらかな感触。

ハーフアップの結び目に器用にコームを差し込む。

意識しないようにしていたが、心臓の音がやけに大きい。


「……ありがとうございます。じゃあ……大事にします」



「うん、ありがとう」



嬉しそうに微笑む彼女の姿に、こちらが礼を言いたくなる。

渡したのは髪飾りひとつだけなのに――

こんなに喜んでくれるなんて、ずるいじゃないか。



髪飾りにそっと手を当てる仕草を、何度も、何度も繰り返す。


(……ああ、もう。本当に、どうしようもない)


――ただの“フリ”のはずなのに。

その境界線が、どんどん揺らいでいく。



彼女の笑顔ひとつで、どうしようもなく満たされてしまう。


次は、もっとちゃんとした言葉で――想いを伝えたい。……そのときが、来るのなら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ