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その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
3章 じれじれ期突入

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38.リボン選び

「リボンか...であれば、あちらに向かってあるこうか。市場の北端に、確か雑貨店があったはずだ」


ライグルは、巡回の合間にジュリオから情報を集めて、いくつか店を下調べしていた。急なデートかつ出張明けとはいえ、彼なりの“備え”は抜かりない。さすが、全方位やれば出来る男である。



「はい!」


手を繋いだ距離感になれなくて、思ったより大きな声で返事をしてしまった。



そんな彼女を、ふっと見下ろして微笑むライグル。


その一瞬で、通りを歩く婦女子たちから「きゃあっ」と黄色い悲鳴が上がったのは言うまでもない。



宝飾店に行けば、サファイアやダイヤモンドを使った高価な髪飾りも手に入るだろう。けれど今日は、日常使いできるものを、ミーナの初任給でも無理なく買える範囲で選びたい。そんな気遣いから雑貨屋を選んだのも、ライグルのささやかな作戦だった。



「ここか。入ってみよう。」


 


ガラス戸を開けると、そこには色とりどりのリボンや髪飾りがぎっしりと並び、見るだけで心が浮き立つような空間が広がっていた。



「わぁ……すごい、種類がいっぱい……!」



リボン、ヘアピン、髪留め、カップや皿、小物入れにキャンドルスタンド。所狭しと並ぶ雑貨の数々に、ミーナの瞳はくるくると忙しく動いた。



「ふふ、楽しそうだな。彼女には、どんな色が似合う?」


(こういうとき、ちゃんと“相手に似合う色”を考えるのって、大事なんだよね)


 


「セリアさんは濃紫の髪色で……だから、紫、黄色、赤、紺、うーん。。なんでも似合いそうです…そうですねぇ、、セリアさんの大人っぽいけど可愛いところ、、を考えると、この深紅のリボン、、どうでしょうか?髪に映えると思うんです」




「なるほど、確かにいいかもな」

 



ミーナはリボンを手に取って、光に透かしてみた。ベロアの質感とラメ糸の輝きが上品で、ちょっと背伸びした贈り物にぴったりだった。



「これにします!」



そう言ってレジに向かい、リボンを包んでもらっている間、ふと何かに目を奪われた。


(……あ、これ、綺麗……)



小さなコーム型の髪飾り。銀色の土台には繊細な葉のモチーフが彫り込まれていて、淡く反射する光が上品な輝きを放っている。中央には、黄金色に近い透明なガラスがひとつ。周囲には淡い黄色や透明の小粒のガラスがいくつか散らされていて、角度によってキラキラと輝く。



(派手すぎないけど、なんだか、すごく……きれい)



控えめな華やかさが、どこか自分にも重なって感じられて、思わず見入ってしまう。



(あれ……この色……なんか、どこかで……いや、いまはそんなの考えられない! 目を合わせただけで胸がいっぱいなのに――)



けれど値札を見て、ミーナはそっと目をそらした。今日は予算オーバーだ。買うとしても、今度にしよう。



そう思って店内を見まわし始めた、そのとき。



「……で、ミーナ? 俺も何か買っていいかな?」



「ん……?」

ミーナは首を傾げた。(もしかして、貢がせるタイプの結婚詐欺……? いや、でもライグルさんが可愛い雑貨好きな可能性も……?)



そんなふうに思っていた矢先、ライグルが指差したのは――



「……こ、これっ……」



息を呑んだ。ライグルの指の先にあったのは、さっきミーナが見つめていた、あの髪飾りだった。



「うん。今の髪型にも似合いそうだし、いつものお団子にも合うと思って……どうかな? ――ほら、初給料のお祝いと今日の記念に。贈らせてくれないか?」



いつもの鋭い目元とは違って、ちょっと困ったような笑顔を浮かべるライグル。今日は私の買い物に付き合ってるだけですよ?と出かかった言葉は...その破壊力に太刀打ちできなかった。。



「……私に?」



「……あぁ、君に似合いそうだと思って」



そう言って、ライグルは髪飾りをそっとミーナのこめかみに近づける。



「~~っ!」


(……なんか、すごく見つめられてる……私の髪型とか、そんなふうに、ちゃんと見ててくれてたんだ……?)



ミーナの顔は一気に熱を帯びた。真っ赤になっている自覚があるけど、もう止められない。



しかも、こんなの今つけたら、完全にデートじゃないか。


――あ、でも、そもそも今日は恋人のフリで来てたんだったっけ……? いやいや、護衛だったし……。



思考回路が軽くショートしかけるなか、ライグルはすでに代金を支払い、髪飾りを手に戻ってきた。



「今つけてもいいか?」



「え、はいっ……」



思わず返事をした瞬間、ライグルの手が彼女の髪にそっと触れた。


(ち、近い……! 後ろから見つめすぎじゃない……?)



彼の指先が器用に動いて、ハーフアップのまとめ髪に髪飾りを留めてくれる。その距離の近さと仕草の優しさに、心臓が跳ねた。



「……ありがとうございます。じゃあ……大事にします」



「うん、ありがとう」


(なんか、すごく満足そうな顔してる……もう!)



胸がいっぱいで、でもとびきり嬉しくて。ミーナは何度もそっと、髪飾りの場所に手を当てた。



――恋人の“フリ”をしているだけなのに、

こんなに幸せで、どうしよう。


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― 新着の感想 ―
本編と推敲中が続けて入ってるよー。
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