表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
3章 じれじれ期突入

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/171

37.ライグル視点

朝焼けが窓の端をかすめるころ、ようやく寮に戻った。


報告書はジュリオに渡し、部屋へ急ぐ。

南部の巡回を終えたばかりの体にはやや疲労はあるが、全く問題ない。それでも真っ先に浴室へと足を運ぶ。


 鏡の中には、銀の髪を濡らした自分が映っていた。

あのクズ(カーティス)のせいで、ミーナが1人で買い物にも行けないのも腹立たしいが、おかげで一緒に買い物にいくことができる。

万一見つかるリスクを避けるために、変装していくことになった。ミーナがそれで安心するなら、俺は何にだって変身してみせる。


ミーナは、どこかの裕福な平民のお嬢様のお出かけ……のような服だろう。いや、実際はお嬢様なのだが。そうすると、そうなると、俺はさしずめその恋人ってところか?


この無駄に整った顔(ジュリオ談)のおかげで、黄色い声や直前的なアプローチを令嬢から受けることもしばしばだが煩わしい。今日は2人きりのデートだ。絶対に邪魔はさせない。


それに、兄のようなあれ。に知られたら、余計なことしかしいな気がする。



だから今日は俺も変装することにした。



戸棚から取り出した小瓶のふたを開ける。中に入っているのは、すすと胡桃油を混ぜた染毛用の軟膏。諜報任務のときにごくたまに使う、人目を欺くための一時染料だ。



髪に塗り込み流せば、半日から一日程度は黒髪に見える。石鹸で洗えば落ちるし、匂いもさほどきつくない。なにより、髪に負担が少ないのが利点だ。



 指先で丁寧に髪へ染料を伸ばす。

 目立ちやすい銀の色が、じわじわと黒へと変わっていく過程に、妙な緊張を覚える。




「……銀色、綺麗って言ってくれてたな(わんこのとき...)」

 ――いつかは、狼姿の俺でも、一緒に隣を歩けるだろうか。。



 髪を整え、庶民的な服装に着替えてから、出かける準備を整える。




―――待ち合わせの小道にて



午前10時前。

いつもなら訓練場で剣を振っている時間だが、今日は違う。


宿舎裏手の小道。花壇の影に立つ俺の手は、ほんの少し汗ばんでいた。

見回り中だってもっと落ち着いてたってのに、何なんだこれは。


(……変じゃないよな、この格好)


リネンのシャツにウールのベスト、黒く染めた髪も、染料の匂いはほぼ飛んだ。

庶民に紛れるにはちょうどいいはず。――それでも、どこかそわそわする。



寮の正門は目立つからと、ミーナが提案してくれたこの裏道での待ち合わせ。

「秘密の約束みたいでいいかも」とか思ってしまった自分が少し情けない。



……けど、悪くない。



と、思っていたそのとき。



建物の角から、ミーナが現れた。



黄色のワンピースがふわりと揺れた。

普段は団子にしている髪が、今日はゆるく巻かれて、ハーフアップに。

日差しを受けて波打つ髪と、帽子の影からのぞく紅の唇と、深緑の瞳。


足が、止まった。


――綺麗だ。


心の中にその言葉が浮かび、他の思考がすべて吹き飛んだ。言葉を失ったまま、ただ、見惚れていた。


「……おはよう、ミーナ」


ようやく声を出せたときには、彼女がすぐそこにいた。


こちらを見た彼女が、ぱちりと瞬きをして、ぽかんと固まる。


(……え? どうした? そんなに変か……?)



「……おかしいか?」と問えば、 



「い、いえ! すごく、似合ってます……!」



――目をそらしながら、そう答えた彼女に、思わず笑みがこぼれた。



「……ミーナ、ありがとう。君もすごく似合ってる。可愛い……」



正直すぎたか。だが、それが本音だった。

今日の彼女は、いつも以上に、何かこう――特別に見えた。


そして彼女は、真っ赤になって話題を切り替えた。


「今日はよろしくお願いしますっ! さ、さっそく行きましょう!」


勢いよく一歩踏み出したその後ろから、そっと声をかける。


「あ……護衛だから……。それに、側から見たら、こ、恋人みたいだし……こうしたほうが、変な輩が寄ってこないぞ?」


そう言って、ミーナの手にそっと触れる。

そして、ゆっくりと指を絡めて――手を繋いだ。



「 ……だから、手、繋いでも……いいか?」



この一言を言うのに、どれだけ心臓が跳ねたか。


俺の手を受け取ってくれたミーナの頬は、桜色に染まっていた。

……たぶん俺も同じくらい、耳が熱い。


けれど、繋いだ手の温かさが、たまらなく嬉しい。



(……守りたい、ただそれだけじゃなくて。傍にいたい、って……思ってしまうのは、欲張りか)



気づかれないよう、手に力をこめすぎないように。けれど、たしかに繋いで歩き出す。



「……まずは、どこに行きたい?」


そう問いかけると、彼女は少し迷ってから、まっすぐ俺を見て答えた。



「では、セリアさんのプレゼントを買いに行きたいです。髪を結んだときに使うリボンを……」



「わかった。じゃあ、こっちへ。歩きにくくないか? 疲れたら、すぐ言うように」



ごく自然に、けれど気づかれないように、周囲に注意を払う。けれど、内心ではもう――彼女の反応ひとつひとつに、心が跳ねていた。


可愛い。……もう、ずっと笑っててほしい)



誰にもこんな顔は見せたことがない。

ミーナの前だと、どうしてこうも、余裕がなくなるんだろう。



ミーナは、狼の姿も気に入ってくれた…

隠し事の多い俺のことをミーナはどう思うだろうか……。



――もし受け入れてくれたらそのときは…



デートは、まだ始まったばかり。

なのにもう、今日が終わってほしくないと思ってしまう――なんて。



こんなことを思いながら、

ライグルは、ミーナの手を優しく引いて、ゆっくりと歩き出した。


とうとう自分でわんこ、発言したらライグル氏。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ