33.ジュリオしばく...!
―――セリアさんの部屋にて。
案内されたセリアさんの部屋は、意外にも上品で整った空間だった。壁には繊細な花模様の刺繍が飾られ、棚には整然と並べられた香水やアクセサリー。
そして、クローゼットを開けると——
「……す、すごい数……!」
ずらりと並んだ色とりどりのドレスやワンピース、上品なブラウス、可愛らしい帽子たち。見慣れない質のいい布地に、思わず目を見張ってしまった。
「うふふ、驚いた? あたし、実は商家の娘でね。実家が布や服を扱ってて、昔からこういうのには困らなかったの」
セリアさんは片方にゆるく編んだ濃い紫の三つ編みを指でくるくるしながら、ちょっと誇らしげに笑った。
「実家は兄が継ぐって決まっててさ、あたしは“いいとこに嫁げばそれでいい”って雰囲気だったんだけど……冗談じゃないわ。
嫁ぐにしても、自分が好きな人がいいし、あたしは服も人も大好き。ちゃんと自分で見て、自分の言葉で考えて、人生決めたいのよ」
「……ですよね!!」
ミーナは首をブンブン縦に振る。
思わず大きくうなずいたミーナを見て、セリアは優しく目を細めた。
「“お嬢様”やってるのも悪くなかったけど、やっぱこう……料理の匂いとか、人の愚痴とか、そういうのが好きなのよ、あたし。変?」
「ぜんっぜん変じゃないです……むしろ、かっこいいです」
「本当はこういうのって、あんまり人に見せないんだけどね……今日は特別」
(……なんだろう。普段は元気で姐御な人なのに、今のセリアさんは、すごく優しくて、女の人らしい)
「さ、ミーナにはこっちの淡いグリーンとか似合いそうだな~。ライグルさん、目ぇハートにするわよ、絶対」
「えっ……あ、あの……それ、ちょっと胸元が……!」
「おっとっと、これはあたしの“勝負服”だったわ!こっちはちょい控えめで、でもちゃんと可愛い系。どう? 鏡の前、行こ!」
(セリアさん、すごい……なんか、ぐいぐいリードされてる……!)
鏡で合わせてみたり、着てみて、淡い黄色のワンピースに決めた。
ふわっと広がる裾が軽やかで、肌なじみの良い色。なんだか、少しだけ胸を張れそうな気がした。
「変装するんでしょ? 当日は、髪の毛もいつもと違う感じにしてあげるから、必ずここに来るのよ?」
「……はい、絶対来ます」
そして、ふと部屋を出る時、セリアさんがぽつりとつぶやいた。
「で……ジュリオ、ミーナの初デートの件、黙ってたのよね? 気を利かせたつもりか知らないけどさ……」
(ん? 今、声のトーンが低くなった……?)
「明日厨房で顔合わせたら、絶対しばく。三回はしばく。容赦しない」
(……ジュリオさん……生きて……!)




