32.セリア姐さんに相談
「楽しみにしてる……」
って、あの笑顔。……やばい。
ライグルさん、たぶん自分の顔面の破壊力をわかってない。
あの微笑みで国が一つ傾くレベルよ……本当に。
私は、小さいころから婚約者はカーティスって決まってて、
月に一回、定例会みたいに顔を合わせるだけの関係だった。
それ以外の男の人とは、まともに話したこともなかった。
……それに、実の父は——
母が妊娠してる最中に、他の女性を作って、子どもまでもって……
そんなクズだった。
だから。
ライグルさんからの誘いが、すごく嬉しいはずなのに、
私の中のどこかが警戒してしまい、無意識に身構えてしまう。
——たぶん、私が一人で出かけるのが心配なんだよね。騎士として、放っておけないから一緒に来てくれるんだと思う。
……でも、やっぱり。
来週の火曜が楽しみな気持ちは、どうしても抑えられない。
……何を着て行こう?
実家から持ってきた服はくたびれてるし……そもそも、
“お出かけ用の服”なんて、私……持ってたっけ?
あ。ない。ないかも。
買い物に行く服すら、ないじゃない……!
うん、これはもう……セリアさんに相談しよう。
――――――
厨房の一角、食器を片づけているセリアさんに、そっと声をかけた。
「……あの、セリアさん。ちょっと、相談してもいいですか?」
「ん? どうした? ミーナがそんな顔してるってことは……ふむ、まさか恋の悩み?」
セリアさんは振り向いて、にっこり笑って見せた。
「こ、恋っていうか……来週の火曜に、買い物に行くことになって……」
「おっ、デートじゃん!」
「ち、違……くはない、かも……その、ライグルさんと……」
(……いろいろ思い出して、顔が赤くなる)
「はいはいはい!? ちょっと待って、ミーナちゃん、なんでそんな大事な話を今まで黙ってたのよ!? ……ジュリオしばく!!」
(セリアさんががばっと近づいてきた。……ん? 今、怖いこと言った? ジュリオさん……ドンマイ)
「で? 服は? どこで会うの? お昼は? なに着るつもり?」
「そ、それが……買い物に行くための服が、ないって気づいて。だから、当日着て行く服が……」
「なるほどね〜……うん、任せて!」
(セリアさんが立ち上がり、勢いよく私の手を引く)
「このセリアさんが全力でプロデュースしたげるわよ! 買い物コーデも、デート映えも、おまかせあれ!」
「そ、そんな……お手間をかけるのは申し訳ないです……!」
「何言ってるの、女の子が恋するのを応援するのは、あたしの生きがいなのよ!」
「……ありがとうございます。?恋...じゃないんけど..たぶん....心強いです、ほんとに」
(セリアさんの言葉に、心がじんわり温かくなって、自然と笑顔になった)
「礼なんていいから、とにかく自分に自信持ちな! 絶対、隊長はミーナちゃんのこと、ちゃんと見てるから!」
そして私は、そのままセリアさんの部屋へと連れていかれた——。




