30.デートの約束
◆中庭、訓練後のひととき
数日後の訓練終わり、中庭で。
私はジュリオさんにそっと相談を持ちかけていた。
「え? セリアちゃんにプレゼント? へぇ〜……いい心がけじゃん」
「何がいいと思います? あまり高くないもので、ささやかでも気持ちが伝わるものがよくて……」
「うーん……セリアちゃんねぇ。あの子、髪結ぶの適当だからさ、リボンとかどう?」
「……リボン?」
「うん。きれいな色の一本もの。
意外とね、嬉しいとちゃんと喜ぶタイプだし。何より、似合うと思うんだよな」
予想以上に的確で、ちょっとロマンチックな助言に、私は感心してしまった。
(……ジュリオさん、ちゃんと見てるんだなぁ)
二人で笑い合った、そのとき——
「……何を話してる」
背後から、低くて鋭い声が割って入った。
「うわ、隊長!? って、なんでそんな怖い顔してんのさ」
「別に」
ちらりと私を見たあと、そっぽを向くライグルさん。
でも、耳がちょっと赤い。……たぶん気のせいじゃない。
「ミーナちゃん、お買い物行きたいって話だったから、俺が付き合おうかな〜って思ってたんだよね〜。隊長は忙しいでしょ?」
と、ジュリオさんがわざとらしく言う。
「……(ジュリオ、テメェ……)」
(あ、まずい。ライグルの背後から、黒オーラ出てる……ニヤニヤ)
「まぁでも? 俺、休み合わなかったから? おまえはどうだったかな〜? ね〜?」
「……合う。その日は休みだ。俺が行く」
思わぬ立候補に、私はぽかんとした。
「えっ……!? 私は一人で行くつもりでしたけど……?」
と言った瞬間——
「「えっ!? はっ?!」」
なぜか二人同時に驚かれた。
そのあと、しっかり説教をくらった。
「この前も絡まれたばかりでしょ!不用心すぎ!」
「護衛がついてないって、俺たちとしても問題だっつーの」
(……確かに、1人で行くのは不用心だったかもしれない)
耳にタコができそうなほど注意されて、私はちょっと肩をすぼめる。
(……セリアさんと一緒に行くのもいいけど、サプライズにはならないし……)
そんなとき、ジュリオさんがにやりと笑った。
「まあ〜? 隊長さんが日程空いてるっていうし? 心配だったら、2人で変装して行ってきたら?」
「変装! いいですね! そうします! ……ただ、ライグルさん、お忙しいのに本当にいいんですか?」
「……あ、ああ。護衛としてちょうどいい。変装も任せろ」
ライグルさんは少し照れたように言いながらも、きっぱり頷いた。
「ありがとうございます! では、その方向で!!」
解決法が見つかり、安心し嬉しくなった、私は笑顔で一礼して、駆け足でその場を去った。
(米、米、米が、食えるぞーーー!!)
──ぴょこぴょこ走る後ろ姿を、2人の騎士が見送る。
「……よくやった。ジュリオ」
「でしょ。……つーか、お前、日程空いてるとか言ってたけど、誰も決めてないよね?」
「…………それは、言うな」
(変装か……ミーナは、何色の髪でも似合うんだよな……)
(まあ……ミーナの美しさは、俺だけが知ってればいいんだ)
そう心の中でつぶやきながら、ライグルはそっと拳を握る。
「……よし。ミーナと、で、デートできる……!」




