24.図書館にて
アレクセイが、ミーナを探りにきます!
「……あった!」
ミーナは図書館で、お目当ての本を見つけて、嬉しさで震えていた。
先日、セリアさんと買い出しに行ったとき、あのクズに絡まれてすっかり忘れていたけれど、
あの時私は確かに「米」を見たのだ!
街にあるなら一般的なのかな?と思ってセリアさんに聞いたら、食べたことも知らないと言われた。
料理長のマイルズは「どこか東方の素材らしいけど、食べたことはない」と教えてくれた。
東方に日本のような国があるのでは?それに、米がたべたい!この世界では諦めていたけど、牛丼とか親子丼とか、天丼とか、米のレシピは無限なのだ!
米があるなら、醤油は?味噌は?
丼を食べたい気持ちが爆発して、まずは知識を得るため王宮図書館に来た。
街のおじさんに聞きたかったけれど、あのクズと遭遇したばかりで、街に行くのはちょっと怖かった。
この世界では、まだまだ本は高く、カツカツ経営の実家では読む機会と時間なんてなかった。騎士団寮の使用人ならば、平民でも王宮図書館で本を読むことができるのだ。家出してほんとによかった!
私は期待MAX。
(米の他に醤油、味噌、たくさん食べたいからなぁ。ついでに、流通ルートがわかれば丼食べ放題)
たぶんすごくニヤついてるけど、止められない。あぁ、えび天… (ウヒョウヒョ)
そんな具合に、元気に本を探し始めたのだが……
「……ない、…ない…ない…なんで!?」
料理長のマイルズさんも知らないくらいだから、あまり需要がない情報なのかしら……
だけど…もしかして
(ゴクリ……)
奥にあるあの扉……貴族なら閲覧可能な、特別区間にあったりして……
司書さんが入り口にいるし、私は入れないよね……
でも入って確かめてみたい。
ここでミーナ・エルフォードと申請したら、身バレしてしまう。いや、これくらい大丈夫かな?
う…いやだめ。……今日は諦めよう……
と思って引き返そうとしたとき
「…お嬢さん、お困りかい?」
こげ茶の髪、素朴だけどどこか品のいい服装の青年が声をかけてきた。長い前髪で瞳は隠れている。まあ、関わらないのが一番。
(これって、前世でいうところのナンパ、じゃない?)
私は警戒して、後ずさる。
すると青年は距離を詰めてきて
(ちょょ、来ないで?)
「まぁ、そんなに警戒しないで。実は、僕この先のエリアに本を読みにきたんだよね。」
(ん?!早く言ってそれを!ここに入りたいてことは貴族かな?こんな人見たことないから最近爵位をもらったとか?商人出?)
ふふっ、僕はいちおう貴族なのさ。レオって呼んで?君、困ってそうだからさ、、今なら僕の付き添い、ってことで中に入れるけど、、どう?」
(私、口に出てたかな?怪しんでるのがバレてたかしら…ん!?!)
まさかの提案に私は固まった。が返事は決まる。
(怪しい……けど、それでも……本が読みたい!)
「じゃ、、お願いします……!」
結局私は、読みたい欲に勝てなくて、怪しいレオさんに助けてもらうことにした。
エリアに入ったところで、
「では、ありがとうございます!」
これ以上関わりたくなくて、立ち去ろうとすると
「ちょっと待ってよ(ニヤリ)。君は僕の連れだから、怪しまれないように少し近くにいたほうがいいと思うんだよね。(ニヤニヤ)」
(こいつ、性格悪い……)
けど言うことはもっともだ。私は仕方なく
「それでは、レオさんの近くに座らせていただきます。これから本を選んで参りますが、その間近くにいるのは色々歩き周り、ご迷惑となると思いますので。本を選んだ後、ご一緒させていただきますね?」
と告げた。
レオさんは、満足気に微笑み、
「いいよ、じゃ僕も本を選ぶとしよう」と
棚の奥に消えた。
(優しい……?けどなんか、偉そうなんだよな…何者なのこの人?)
レオさんを巻いたあと、
「米、米、どんぶり〜♪」
米についての本を探す。米の特産品国、東方の国や周辺国についての地図。ついでに流通ルート。
たくさん仕入れられれば、オムライスに、チャーハンが食べれる。麻婆豆腐とご飯……。麻婆豆腐は飲み物だよね?あ!豆腐も調べよう!
お目当ての本をいくつか選び、私は席についた。仕方なしにレオさんの近く。集中して読みたいから、話しかけないでオーラを発しながら、本を読み進める。
(なるほどね、ここフェルデン国より、東にあるシュエン国で米が栽培されてるのね!うんうん、やはり主食ね。
で?シュエンの隣は獣人の国ゼリオン?
シュエンとゼリオンは国交がよくあるのね。
東方のシュエン、獣人の国ゼリオンって、伯爵家の教育では触れられてなかったな…うちの伯爵家が取引してなかったから?何かの事情で伏せられてたり?……考えすぎね……。
まぁ、獣人といえば、、もふもふ、耳とか尻尾とか獣人いるのかなぁ?)
色々考えていたら、この前のライグルさんの街で名前呼んで?と言われたときの垂れ耳が浮かび、思い出して赤面してしまった。
結構背が高くて、引き締まった体躯で、隊長!なんだけど…かわいかったな。
思考が前世で読んだファンタジー小説寄りになり、気を引き締める。
そんなとき、となりのレオさんにふと話しかけられた。
「ふっ、どうしたの?目当ての本は読めたかい?」
「…はい」
返事はしたものの、なんとなく気まずい。目を逸らすように、私はまた本に意識を集中する。
しかしさっきよりも、レオさんが気になってしまう。
彼も何冊か本を持っていて、座ってからは静かに本をよんでいた。
──たしかに彼は本を読んでいる。けれど、私がページをめくるたび、レオさんの視線を感じるのは……気のせいじゃない……かも)
ため息をついて、再び本に集中する。そのとき
「──東方の資料を読むなんて、珍しいね?」
レオさんが隣からふと声をかけてきた。声色は穏やかだけれど、視線はじっとこちらを観察している気がして落ち着かない。
「……はい、そうですが」
(まじで放っておいて……)
できるだけ簡潔に返す。なのに、彼はそのまま話を続けた。
「米?について調べてるの、面白いね。しかも丼?親子丼? 麻婆豆腐って、なにそれ。辛いの?」
「……っ!? なんで──!!」
私は思わず、彼を見てしまった。
「声に出てたんだよ? “オムライスにチャーハンに麻婆豆腐”って」
レオさんはくすくすと笑った。
「……は、恥ずかし……っ!!」
私は思わず顔を両手で隠した。
「ふふ、ごめんごめん。でもね、変わってるね、君って。普通の子なら“東方の国”なんて言葉だけで遠ざけるのに。まさか流通経路まで調べるとは思わなかったよ」
「……ただ、単なる好奇心と、食欲からです」
「欲がある人間は面白いよ。意志があって、頭も働く。“駒”として使うなら、最高の手駒だ」」
「……え?」
「なんでもない――“君の未来”、ちょっとだけ気になっただけさ」
レオさんはさらりと流すように笑い、椅子から立ち上がった。
「じゃ、僕はもう行くよ。今日は付き添いってことで、入れてあげたけど──」
彼はミーナの横でくるりと踵を返しながら、肩越しに言った。
「……本当はね、自分で来たかったら、使用人でも申請すれば入れるよ? 許可証があれば、ね?」
「え、ちょっ……! 最初に言ってくださいよっ!!」
レオさん──いや、“レオ”と名乗った謎の青年は、私の叫びに笑いながら、手をひらひら振ってそのまま去っていった。
「……性格、悪……っ」
ぽつりと呟いた私の耳に、残るは彼の余裕たっぷりな足音と、
どこか“何かを見つけた”ような、満足げな気配だけだった。
(なんだったの、あの人……)
そんな疑問を抱きつつ、私は再び地図に目を落とす。
「シュエン」「ゼリオン」「獣人」──なんだか、知らないことばかりで、もっと知りたい!ワクワクする方向へ転がっていきそうな、予感がした。
――――――
アレクセイ談
まさか“ミーナ・エルフォード”がこんなところで……しかも、使用人として来てるとはね。
伯爵家の名を名乗らず、自力で情報を取りに来るとは。
あの特別区間の受付は、王宮直属の諜報部門の管轄だ。だからこの僕でも顔パスで通れた。──というか、僕以外で申請なしで入れるやつはそういない。
ふっ、それにしても…あの歌は何だ?
「まーぼーどーふ」って、どんな飲み物なんだろうな…。
ミーナの鼻歌はバッチリアレクに聞かれていた。
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更新開いてしまい、すみません!国名など詰めてみました。




