23.アレクセイ登場
王城の回廊。
夕暮れに染まる長い廊下を、――アレクセイ・フェルデン王太子が、ひとり、ゆったりと歩いていた。金髪蒼眼の整った容姿で、歩く姿はまさに優雅で、ザ・王族。そんな彼の手には何枚かの報告書が握られている。
「ふぅん……やっぱり、動いたか。ライグル」
彼の視線は、手元の書簡ではなく、窓の外に落ちた夕陽の光を追っていた。
そこに書かれていたのは、数日前に回した“とある家系の調査報告”──自ら密かに動かせる情報網に、ライグルが正式に情報提供を求めてきた記録だった。
アレクセイは報告書をぱたりと閉じ、くすりと笑った。
「あの子のために、ここまで本気になるなんて。アイツらしいな……。何があっても、“まず本人に知られる前に、自分で片付ける気でいる”ってところだな……惚れた女に、汚い現実を見せたくない……うん、見事に惚れてる。
あの子が笑っていられるように、誰より先に動いたってわけか……全く、あいつらしい(クスクス)」
そう言うと、彼は軽い足取りで歩き出す。向かう先は──中央騎士団本部、団長室だ。
―――――――――――
〈ライグル視点〉
「……また団長室か……」
軽くため息をつきながら、俺は扉の前でノックもそこそこに中に入る。
前回の“尋問(という名の激励?)”を思い出して背筋をのばした。
けれど、目に飛び込んできたのは──団長だけじゃない
「やぁ、久しぶりだね。って言っても三日ぶりくらいか。元気してた?」
(俺とコイツは幼馴染で、コイツの護衛につくこともしばしば。あぁ、3日しか経ってねぇ)
ソファに深く腰をかけ、優雅に紅茶を飲んでいたのは、幼なじみであり王太子のアレクセイだった。
にこにこと微笑むその顔には、明らかに“何か知ってる”感がにじみ出ている。
「王太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しく……って、何の用だよ」
「はいはい、そうゆうの良いからさ〜」
「……チッ、なんでお前がここにいる」
「いやー、ギルバートがね、“ライグルがちょっとピリピリしてる”っていうから、様子見に来ただけだよ? ほら、心配してるんだよ、お兄ちゃんなりに」
「心配の顔じゃねぇな」
「さすが、察しがいいね。まあ、七割は茶化しに来た。けど、三割はほんとに気になっててさ。──最近の君、明らかに“動いてる”から」
ギルバートが横で満足げにニヤついている。やれば出来る子なんだライグルは…
親バカな表情が隠せていない。
ライグルは眉間を押さえ、小さく舌打ちする。
「……さすがだな。いつも通り適当にやってるぞ?」
「そうそう、それそれ。普段だと“まあ、適当にやっといてくれ”のライグルくんが、いきなり“この領地の税収推移と資産洗ってください”とか言い出すんだもん。そりゃ目立つよ」
アレクセイがにやりと笑い、カップを置いた。
今日もまた、ギルバートの紅茶は妙に美味い。
「それでさ……一つだけ聞いていい? ──君、“本気”なんだね?あの子のこと」
ライグルの動きが止まる。
だが、もう否定する気はなかった。
「……当たり前だろ。俺は……」
言いかけた言葉を飲み込み、彼は真剣な眼差しでアレクセイを見返した。
「守る。もう二度と、誰にも傷つけさせない」
アレクセイの笑みが、ほんの少しだけ優しいものになる。
「……なら、いい。安心した。君がそう言うなら、僕は“君の邪魔をしない”。むしろ、勝手に後方支援しておくよ」
「余計なことはするなよ」
「うん。余計なことしかしないつもりだけど。」
「やっぱ帰れ」
お前ら、ここ団長室だぞ…
(おまえらの、おもりじゃねぇ…… こいつらそのうちどっかの――主にミーナ関係の――屋敷をぶっ壊すんじゃねぇか……?)
ギルバートが大きくため息をついた。
やる、絶対にやる、、コイツらなら(ギルバート談)




