20. 確信犯だろ?(ジュリオ視点)
「おい。」
廊下の先から、ライグルが声をかけてくる。
(やべ、見つかった)
まさかの光景に、俺は気配を消すのを忘れていたらしい。まぁ、アイツなら匂いでわかるだろうが…
遠目で見えなかったが、コイツ赤面してなかったか?確かめるために、冗談まじりで聞く。
「よう、ライグル?寝坊とは珍しいなぁ。あーあ、いつも無駄に整ってる頭がピョーンて笑。……で、昨夜はどこで何してたんスか?なんかみょーに,ミーナちゃんと距離近くないすか?(ニヤニヤ)」
「……(顔が赤くなる)……別に」
「……(あ…まじ?ガチっすか?)」
あの表情筋が役に立ってない、ライグルが……赤面…
この反応…嘘だろ?ちょっとしたいつものからかいのつもりが!!
こいつがこんな反応をするのは、やはり、厨房のミーナちゃんが絡む時…
他人に頭を撫でさせるとか、寝癖とか入隊してから一緒の俺でも初めて見たからな?!
しかも、俺以外の騎士の奴らも、頭を撫でられ赤面するライグル《銀閃の騎士》を見て、信じられないものをみた驚愕の表情だった。
ふっふっふ……やはり見間違いではない。
ライグルが!あの銀閃の鬼隊長が!
寝坊して!寝癖つけて!ミーナちゃんに赤面してた!!
(……やべぇ、これはまじで事件だ)
当の本人は、さっさと食堂に向かった。
料理を選ぶふりをしミーナちゃんを見、ばっちりミーナちゃんが見える位置に座っている……
おい、てめぇ…
完全にクロだろ…(俺はセリアちゃんに鉄壁のガードを崩そうと鋭意努力中なのに……)
俺は隣に座るライグルを、ジト目で見る。
ミーナちゃんが厨房組の子たちと笑って喋ってるのを、目の端でちらちら見ながら、食べる手が微妙に止まってる。パンを持ったまま10秒静止って、なにやってんだか...
しまいには、ミーナちゃんに話しかけるヤツらを威圧するとか… こりゃ、惚れてるわ…
その時―――――
「第ニ隊隊長、伝令!」
「はいよ〜……ん? ライグル?」
伝令の若い騎士が、食堂の入り口からこっちへ駆けてくる。
「ギルバート団長より伝達! 第二隊の隊長は、ただちに団長室へ出頭を!」
「…… 」
ライグルがうっすら頭を抱えた。団長の顔が思い浮かんだのだろう…
「以上、繰り返します。団長室へ、今すぐ!」
ジュリオとライグルは顔を見合わせた。
「お前、やらかしたんじゃねぇの〜?」
「……は?」
「昨日の夜、どこにいたの隊長さん?……あ、そーいや、ミーナちゃんもいつもより遅い出勤だったっけ?」
ライグルの顔が、ぴくっと引きつった。
(あー……図星かよ)
「……さすが団長、知ってんじゃね?」
「……行ってくる」
伝令を先に行かせて、ライグルは席を立った。
ミーナちゃんが、こちらを見てぺこっとお辞儀してるのを、ライグルは、すご〜くそっけない表情で一瞬だけ見返して――
(……ばれたくないんだな、余計に)
俺は小さくため息をつきながら、ライグルの背中を見送った。
(さて。団長室で、なにが始まるやら……)
俺は、コイツの恐らく初恋を応援しよう。
(全力でイジリ倒す方向で。)




