19.わんこに見えた(ミーナ視点)
朝の空気はひんやりしているけれど、陽の光はやさしくて、気持ちがいい。
昨夜はあんなに泣いたのに、今朝は不思議とすっきりしている。
きっと……あのわんこが、そばにいてくれたからだ。
ふわふわの手触りと、ぬくもりを思い出すと、胸がじんわり温かくなる。
「ミーナ? お、おはよう…」
驚いて振り向くと、そこには隊長――ライグルさんがいた。
少し寝ぼけたような髪と、いつもより少し眠たげな目。それに、どこか気まずそうな声。
「た、隊長……ライグルさん! おはようございますっ!」
慌ててお辞儀すると、ライグルさんがほんの少し目をそらした。
……眠そう。でも、ちゃんと顔を見せてくれて、なんだか嬉しい。
「昨日はよく眠れたか?」
「??? はい!こちらにお世話になってから、快適な睡眠と食事と。大変ありがたく、一生懸命働かせていただきますね!」
そう笑って返すと、なぜかライグルさんがさらに視線を逸らし、下を向いた。
顔が……赤い?熱でもあるのだろうか?
下を向くと、私より背の高いライグルさんの髪の毛が、ちょうど私の目の前にきた。
綺麗な銀髪だな…昨日のわんこみたい……
「……あれ? ライグルさん、頭……」
「ん?」
ちょうど俯いた彼の頭に、小さな寝癖がぴょこんと立っていた。
昨日のあの子と重なって、つい手が伸びて、寝癖の箇所を手のひらで撫でるよう触ってしまった。
「……あれ? 寝癖、立ってますよ」」
ちょっとだけ髪に指が触れただけだけど――
(……あっ、まずかったかな)
自分の立場を思い出して、慌てて手を引っ込めた。
「あっ、し、失礼しました……!つい……」
「……ありがとう」
ライグルさんは少し下を向いたまま、髪をぐしゃぐしゃと押さえながら答えた。
やっぱり顔が、真っ赤。
……どうしたんだろう?体調、悪いのかな?
それとも、私……何か失礼なこと、しただろうか?
(ううん、でも……嬉しそうにも見えた?ような)
「! では私、準備があるので、先に食堂に行きますね! また後ほど!」
変に気を遣わせてもいけないと思い、慌ててその場を離れた。
――でも、後ろ姿が少し気になって、振り返りそうになった。
(ライグルさん、なんだかちょっと……いつもと違った気がする)
垂れ耳としっぽが見えて、クゥぅんと鳴き声が聞こえたのは気のせいだろうか…




