表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
2章 再会と黄金の瞳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/171

17.月夜の邂逅(ライグル視点)

「月の出る夜は、カーテン閉めて寝ろ。」


団長の渋い声が脳裏で繰り返される。

だがその夜、俺はいつになく寝つけず、部屋の窓を半端に開けたままぼんやりと月を見上げていた。



原因は分かっている。

昼間、偶然街で出くわしたミーナとあのクズ。


毅然とした態度で立ち向かい、まるで、誰にも頼る気がないとでも言うような強い姿。……けれど。あざが残るほど掴まれた手首....どれほど痛かっただろう...



「……クズめ」


医務室で処置した時、触った手首が細くて、俺みたいなのが触ったら折れそうで...

「守りたい」

ぽつりと呟いたときには、もう喉の奥が熱く、骨格がきしむ感覚が始まっていた。

気づけば俺は、銀狼の姿になっていた。



くそ、まただ。

我慢がきかない。なぜコントロールできない。

――あの子のことになると、どうして俺はこうなんだ。



風が運ぶ匂いに、鼻先がぴくりと反応する。

干し草のような、陽だまりのような、どこか懐かしく落ち着く香り。

……ミーナだ。



気づけば、寮の裏手まで走っていた。



人気のない裏庭。足を止め、影に身をひそめていると、やがて芝生を踏む足音戸ががした。



ふわり、と灯りが漏れる。

現れたのは、……まさか。



「……っ」



咄嗟に息を潜める。

ランプを手に、夜風の中に佇む彼女。

その姿は――薄手の寝巻き姿だった。


淡い生成りの布地が、夜の湿気にふんわり揺れている。

襟元は少し開いていて、白い首筋が月光に照らされていた。


……寒くはないのか? 夏の終わりとはいえ、夜風は肌に染みる。

けれど彼女は気にする様子もなく、静かに草の上に寝転んだ。


(……だめだ、見てはダメなのに....目が……離せない)



胸がざわつく。獣の感覚が目を覚ます。

けれどそれ以上に、月を見上げる彼女の表情が――哀しげでーー何かを噛み締めるように歪んだ瞬間、俺の中の何かがぎゅっと締めつけられた。


肩が、かすかに震え、涙がポツリと地面に落ちる音がする。

……泣いてるのか?


「……」


飛び出して、声をかけたくなった。

けれど俺は、その場から一歩も動けなかった。

動けば彼女の邪魔になる気がして。

ただそっと、彼女のそばに寄り添える風のように、そこにいたかった。

――見守りたいと思った。



しかし、ミーナを見過ぎていたのか、彼女と目が合ってしまった。

俺の姿に気づいた彼女が、そっと目を細めて「おいで」と言ってくれた気がして...遠くで見守りたいと思っていたはずなのに...一瞬で彼女に駆け寄ってしまった。



そっとその手に鼻先を寄せる。

温かい。優しい。柔らかい。


ただ、彼女が泣きやむまでそばにいれたら。

狼の姿では、慰めることも、名前を呼ぶこともできない。


くそ、なんて無力なんだ――。



狼姿の俺に抱きついて、頬を寄せて....

少しは慰めになっただろうか...



こんな俺でも役に立つことができてよかった。


(人の姿でも、隣にいてあげれたらいいのに)


そう思った瞬間だった。

ミーナが、ふいにこちらを見つめて──そっと微笑み


「……もう少しだけ、そばにいて?」


そのまま、ごく自然に身を寄せてきたかと思うと、彼女の腕が、俺の首元にまわされ、ふわりと優しく、抱きしめられた。


(……!!!!)


優しい温もりと、干し草(お日様)の匂いに、包まれ

「.......クゥゥン」と出したことのない甘えた声が出てしまった。


心臓がうるさい。いや、鼓動の音がうるさすぎて彼女に聞こえるんじゃないか....



狼の姿で良かった。ほんとに。

今、人の姿だったら――


あぁ、嫌われたくない....


それはつまり...好き...なのか?


いや、でも....

(ライグル(人間)と知られたら、恥ずかしくて死ねる...気がする...ジュリオの軽口がうつったのだろうか...)


──


帰り際、彼女が少しだけ体を離し、撫でるように頭をくしゃっとしてくれる。

狼のふりをして、じっとその仕草を受け止めた。



今だけは、こんな俺でも、

少しくらい甘えてもいいだろうか──そう思った夜だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ