表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
2章 再会と黄金の瞳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/171

16.月夜と銀色のもふもふ

昼間の出来事のせいか、眠りが浅く、私はふと夜中に目を覚ましてしまった。

カーテンの隙間から、月の光が差し込み、思いの外明るい夜だった。おそらく、夜の11時を回った頃。



実家にいたときは、窓さえない部屋だったから...

部屋から外の景色が見えることが嬉しくて、カーテンを開けてぼんやり外を眺めた。

空には、冴え冴えとした月が高く昇っている。



あそこは...裏庭だっけ?

生い茂る緑の中に、白い花が月の光に照らされて美しく咲いている。



確か...夜香木?だっけ?

前世で大好きだった、ジャスミンの香りがするんだよね..



寒いかしら......

どうしても香りを確かめたくて、窓を開けると、夜のひんやりした澄んだ空気が吹き込んできて、私は、夜香木のいい香りを胸いっぱい吸い込んだ。



はぁ......

大きなため息をつき、もっと近くで香りを嗅ぎたくなった私は、ランプを持って庭に出てみることにした。




一応寮内だし、月明かりで明るいし...大丈夫よね?

こうしよう...って自分でやりたいと思って、何かをできる喜びと、ちょっと悪いことをしている気分だけど、ワクワクしてしまう自分にクスッと笑ってしまった。




実家で使い古されてばかりの日々だったのに、こんなに変われたのは、出会った人たちの優しさや温かさがあったからだ。




そんなことを考えながら、階段が(きし)み音を立てないように気をつけながら、降りていき、庭へ続く扉をそっと開けた。





寮の裏庭は、夜露を含んだ草の匂いに包まれていた。

夜の冷えた空気に、私はランプを握りしめ、一歩踏み出した。



よく整えられた芝生柔らかい感触が、靴底からでも伝わってくる。


...フフッ(楽しい)


夜香木の香りを辿って、足を進めていく。

空気はひんやりと澄み、月の光が庭に静かに降り注いでいる。青々とした森の香りにざわついていた心が、少し凪いでいく。



......昼間の賑やかさが嘘のように静まり返っている。

私は石畳の小道をたどって、歩いていると、....蔦が絡んだアーチの裏に、半分土に埋もれた古い石段を見つけた。半ば苔むしている階段をそっと登ると、寮の灯りも届かない、芝生が広がる静かな広場のような場所に出た。思ったより遠くに来てしまったみたい。



人目を気にせずいられるのはありがたい。

私は腰を下ろし、人目がないのをいいことに、芝生に大の字で寝転んだ。




明るい月を見上げていると、ふと月に雲がかかる。その瞬間...今日の出来事を思い出していた私は、胸の奥に押し込めていた思いが、ふいに溢れてしまった。



カーティス.....

あの声、視線、手の感触──全部、思い出したくないのに。



「……私、まだダメなんだな……」

——あんな男に、まだ怖気づくなんて。


 

涙が耳を伝い、芝生に落ちる、


新しい生活に慣れてきたから、もう大丈夫。

自分の力で歩くんだ。



そう思ってやってきたのに



人違いを装って、誤魔化してみたけど...

あのニヤついた顔...絶対気づいてる...



また何かされるんじゃないか...

もしあのう家に連れ戻されたら...

お世話になっている人に迷惑がかかるんじゃないか...



「私のせいで.....」


「なんで、こんなに情けないんだろう……」



変われた。

強くなったと思ったのに....私、全然変わってないじゃない……

私の選んだ道は正しかったのだろうか...

それでも私はここに居たい...



涙が止まらなくなり、私は声を殺して泣き続けた。




そのとき......ふっと何かの気配を感じ、揺れる草の方を見ると....




ふわりと草の擦れる音がして、そこには一匹の大きな銀色のわんこがいた。

銀色の毛並みが、月明かりを受けて柔らかく輝いている。鋭く光る、黄金の瞳がミーナをまっすぐに見つめている。

(....この前のわんこ?)



そして、なにも言わずに私のそばに寄ってきて、こちらを見つめている。




 「……また、来てくれたの?」



 応えるように、狼はゆっくりと私に近づき、私の手の平の匂いを嗅ぎ、舐め始めた。



「フフッ、くすぐったいってば」

くすぐったくて、思わず声を出して笑ってしまった。



今度は、私の泣き顔に気づいたのか、今度は私の泣きはらした顔を心配そうに覗き込んでくる。

その優しさが嬉しくて、私は体を起こして、座ったまま、もふもふのわんこを抱きしめた。



「いい子……慰めてくれてるの?」



 驚きと嬉しさで涙が引っ込んだ私の顔を見て、少しホッとしたような目をしたわんこは、何をするわけでもなく、私の隣にスッと座った。



しばらく私たちは静かな庭と美しい月を眺めていた。




私はその背中を撫でながら

ポツリポツリと言葉をこぼす。


「あのね..今日色々あって...私、変わりたい....と思ってもがいてきたけど...全然変わってなかった....それがいい選択だったのかな...自信が持てなくて...」



「もう大丈夫だって思ってたの。新しい生活にも慣れてきて、楽しくて……毎日が自由で……」



少しずつ言葉がこぼれていく。

誰かに話したい。でも、誰にも話せなかったこと。


「でも、今日、あの人に会って──怖くて、悔しくて……」



声が震え、また涙が溢れた。



隣で寄り添ってくれていたその子は、そっと私の方へ身体を寄せ、じっと耳を傾けてくれている。また涙が溢れ出し、思わず膝を抱えてしまう私の頬に、ふいに柔らかな毛並みが触れた。

わんこが、そっと鼻先を私の頬にすり寄せて

「……泣かないで」

とでも言うように、体を寄せ、私の涙を拭ってくれた。



私ははくすぐったさに思わず、また笑ってしまう。

「ありがとう……あなたはいつも、優しいね」



「もう少しだけ、そばにいて?」

私はその子のふわふわしたした大きな体を抱きしめる。

そっとふわふわに顔を埋めながら、ミーナはもう一度目を閉じた。



しばらくして涙が止まった私は、

「ありがとう……わたし、もう少しだけ、がんばってみる...」



私の言葉がわかるのか、その子はクゥンとひと鳴きして頷いてくれた。



さぁ、もう戻らなくちゃ。

「...また会えるよね?またね?」

クゥゥンとまたひと鳴きして、わんこは草むらに消えていった。

 


静かな夜に、わずかな風が吹いた。



「まるで夢だったみたい。」

私は急足(いそぎあし)で部屋を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ