表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
2章 再会と黄金の瞳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/171

15.守りたい(ライグル視点)

「その手を離せ」


巡回中、あの懐かしい干し草の香りに惹かれて、角を曲がった時...

喧騒の中、不穏な気配に反応して足を止めた。

視界の先、人混みの中で見覚えのある後ろ姿が引きずられそうになっている。

──ミーナ。

髪型、服装が変わっても、匂いでわかる。あれは、ミーナだ。



「……何をしている?」



自然と声が低くなった。

問いかけるより先に、相手の手首を捻りあげていた。反射的だった。

剣の鞘に手を添え、いつでも抜ける態勢。敵意を見せれば、それで終わらせるつもりだった。



「中央騎士団2番隊隊長、ライグル・ヴァーレンだ。嫌がる女性を無理矢理連れて行くのは、重大な罪になるが?」



睨みつけるように視線を落とす。

酔っているのか、こちらの剣気にも気づかない様子に苛立ちが募った。



(……こいつ、ミーナに何をした?)


その名を口にした時、男の目が一瞬動いた。間違いない。こいつはミーナを知っている──そして、彼女を傷つけたことがある。


「まさか? 人違いだったみたいだし?」


捨て台詞を残して男は去った。

安堵とともに、冷たい怒りが腹の底に残る。



ミーナの手首を一瞥し、舌打ちしそうになった。

──紫色になりかけた痕がある。力任せに引っ張られたのだろう。



(……間に合わなかったら、どうするつもりだったんだ)



自責と、どうしようもない怒りが交錯する。

彼女が怯えた様子で、しかし毅然とした口調で頭をさげてくる。



「…隊長さんですよね? 騎士団寮の厨房で働かせていただいていますミーナです。危ないところを助けていただきありがとうございます。このお礼は必ず。本当にありがとうございました。」



(……そんな風に距離を取る必要はないのに…)



呼び名が「隊長さん」なのがどうにも堅苦しくて、口が勝手に動いていた。



「……ライグル。」



「へっ!?」と驚く声もかわいい。

(……変だったか?だが、隊長呼びは解せない)



「ライグル様?」

(うっ……自分から言ったことなのなに、いざ名前を呼ばれると…色々と破壊力がすごい…な。熱くなった頬と緩む口元、みっともない顔をミーナに見られたくない)



俺はとっさに、片手で口元を隠し下を向いた。



そんな俺の様子を伺いながら、ミーナは控えめな声で



「ライグルさん?」

ともう一度名前を呼んでくれた。驚きと嬉しさで、ぱっと顔を上げると、ミーナは不安そうな目で俺を見つめていた。




「…っ、(ライグル、呼び捨てで)」

とミーナに言おうとしたが、彼女の不安そうな目を見るとこれ以上は逃げられそうな気がして、口に出すのがはばかられた。




彼女が俺をどう呼ぶか、何を思うか、そんな些細なことが気になり。不躾ぶしつけな願いだったか?いやでも……嬉しい…なんて考えていると




こんなに誰かを気にすることなど、ありえないことだ、とどこかで理解しているのに──。この感情が何なのかがわからない…。




(……さんもいらない。ライグル、でいい。と言おうとしたとき…)



「隊長〜、ナンパですか〜?」

騒がしく割り込んできたのは、ジュリオだった。


(……お前…、なんで今…)



名前を呼んでもらえる機会だったのに…空気に怒りを滲ませると、ミーナの反応まで戸惑い始めてしまう。

ミーナを,少しでも怯えさせてしまった自分に嫌悪した。




「……その子、じゃない。ミーナだ」

低い声でジュリオに釘をさす。




自分の口が滑ったことに気づき、言い直す。

「……いや、違う、いや……その子……だ(?)」

(……“ミーナ”って呼ぶのは、俺だけでいい。)




「???、(ブホッ)…ライグル?はいはい。わかったよ」

(お、おもしれぇ、こいつがこんなに、いい意味で残念なことになるなんて。思わず俺は吹き出してしまった。ミーナちゃん、何もんだ?)




──セリアが現れたことで、安心したのか、ミーナの表情が和らぐ。

(……そうだ、その笑顔の方が似合っている)




彼女の手首の痣に目をやると、怒りが再燃した。



「……大丈夫ではない」



ミーナが首を振っても、安心はできなかった。

身体的な痛みだけではない、あんなクズとはいえ自分より大きな男に連れていかれそうになり、どれだけ怖かっただろう。



(手当てをしなければ──)



気づけば、彼女の荷物を持ち上げていた。



「怪我人が無理をするな。……俺が持つ」



(……しばらくは絡んでこないと思うが、念のため護衛の意味で、寮に一緒に帰ろう)



ジュリオに目配せすると、心得たりと軽くうなずいた。

遊び人でチャラい。そう思われがちだが、実力は確かで、根は真面目なヤツだ。俺の意図を理解したに違いない。




──俺たちは、その足で寮に戻った。

ジュリオは、セリア嬢に着いて行き、嬉しそうにしっぽを振っている。



(確か医務室は…)



「…こっちだ」

少しでもミーナの傷が癒えれば。また笑ってくれたら…それだけだった。



医務官不在のため、俺が手当てをする。



ミーナを椅子に座らせが、怪我のせいで動揺しているのだろう。やや潤んだ瞳や不安そうな表情を安心させたくて、俺はミーナの目線にあわせて(ひざまず)いた。



一緒ビクッとした彼女…

(怖がらせてしまっただろうか…)



これ以上怖がらせないよう、できるだけそっと彼女の手を取り、塗り薬を塗っていく。細くて、あたたかくて、どこか頼りなくて──それでも強く生きている手。



(こんな手を、あのクズは……)



怒りがこみ上げるのを、押し殺して、そっと薬を塗る。クズへの怒りが再燃し、包帯を巻く手が怒りと力加減を間違うと折れてしまいそうで、震えてしまう自分の手を、必死に抑える。



「……怪我が癒えるまで無理はするな」



彼女の顔は、ほんのりと赤かった。視線を合わせれば、彼女は目を逸らす。



(……やはり、まっすぐは見てくれないか。騎士とはいえ、俺も長身で威圧てきだろうな...怖がらせてしまったかな)

 


ショックのせいか、赤くなった彼女の顔を誰にも見られたくなくて、

「包帯を変えるときは言ってくれ……誰にも、こんなことをさせるなよ。

......俺がするから。少し休んでから行くといい」



「.......そ、その髪型と服....よく似合ってる」



部屋まで送るところだが、これ以上怖がらせないように、俺は先に立ち去ることにした。



_______



名を呼ばれたとき、胸の奥がふわりと熱を帯びた。



(この名前を呼ぶ声を、もっと聞きたいと思ってしまうなんて──)



これが何なのか、自分でも理解できない…だが、守るべきものを見つけてしまったことだけは、はっきりしていた。



あのクズをどうしてやろうか…。

俺は思考を切り替え、ジュリオにまた調べさせなければ…とアイツのニヤついた顔が浮かび、ため息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ