13.厨房へご挨拶
厨房の扉を開けた途端、鼻腔をくすぐる香ばしい匂いと、活気に満ちた音たちに包まれた。……トントントントン…… 包丁とまな板のリズミカルな音や、調理中の蒸気、炒める音と香ばしい香り。ぐつぐつ煮込まれている熱々のスープの音がする。昨日会った、マイルズさんが料理長然として、各所に指示を出している。
騎士団の食堂は、ビュッフェ形式。
体力勝負で、身体が資本。朝が早い彼らの仕事を支えるため、料理の準備は量も種類も多く、スピード勝負!
賑やかで、大変忙しい様子の厨房で、先輩方が慌ただしく働く中
セリアさんは、マイルズさんと目を合わせてから、よく通る声で皆の注目を集めた。
「みんな、ちょっといいかしら?」
(うっ、ドキドキする…自己紹介どうかうまくいきますように)
「この子、今日から手伝ってくれるミーナ。みんなよろしくね~」
忙しい中とあり、こちらをじーっと見る人、チラっとみて調理に戻る人、黙々と仕事をしている人反応は様々。
私は軽く深呼吸し、
「本日から厨房の手伝いをさせていただくミーナと申します。不慣れなことも多いかと思いますが、よろしくお願いいたします」
最後は、なるべく丁寧にお辞儀し、自己紹介した。
一瞬、厨房が静まり、私はドキドキが止まらない。
が、忙しさを思い出したように、各自の仕事が始まり、ミーナへの注目は溶けていった。
「じゃあミーナ、まずはこっちで野菜の皮剥き、お願いできる?」
「はい!」
「じゃ、お願いね!何かあればすぐ言うのよ?」
面倒見のいいセリアさんの言葉に、むず痒くなりながら私は笑顔で返事をした。
私はボウルいっぱいのじゃがいもの皮を剥いていく。皮が厚いと素材がもったいないし、薄すぎると芽や皮が残ってしまう。程よい力加減が必要な、地味ながらも腕の差が出る作業だ。
私は集中して取り掛かり、ボウルいっぱい全て向き合えた。隣にいた料理人さんにOKをいただいたので、何か、お手伝いできることはあるか聞くと
「す、すげぇ、早いな!お嬢ちゃん、なかなかやるな!!じゃ。皿洗いをお願いできるかな?」
皿洗い、パンの配膳準備…などバタバタした雰囲気での中、ミーナは即戦力として重宝された。
ミーナは戸惑いながらも、前世の観察眼やクソ実家で鍛えた家事力で要領よくこなしていく。
「……ずいぶんしっかりした子じゃない?」
「礼儀もちゃんとしてるし、いい感じね」
気づけば、隣の調理スタッフが笑みを浮かべながら声をかけてくれていた。
「新人のくせにやるじゃないか」「……手が早いな」
戸惑いつつも応えながら、私は少しだけ胸を張って次の仕事に向かった。




