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その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
6章 ラブラブ期突入

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100.ば、ばか!

◆セリア視点:


――淡いピンクの布地に、繊細な小花をひとつひとつ刺していく。


中庭に吹く風は、初夏の香りをまとっていた。



この頃ずっと、気持ちが落ち着かなかった。

事件のせい……だけじゃない。アイツのことを、考えすぎていたから。



(……ジュリオ。あのとき、真っ先に来てくれた)



軽口ばかり叩く、いつもの調子で笑ってるくせに――

彼の声には、あの日、切羽詰まった本音がにじんでいた。



「俺はセリアちゃん一筋なんだぞ!!」


(……聞こえてたよ、ちゃんと)



気づかないふりをしてたのは、私の方だった。



“ジュリオは軽い男”

“本気になったら逃げられそう”



そんな風に、どこかで思ってた。でも――



(私は知ってる。本当はすごく優しくて、真面目で。だから臆病で、不器用なだけだって)



誰にでも笑いかけるくせに、誰にも踏み込ませないところ。あんなにチャラいのに誰とも付き合ったことないのよ?アイツ。

私のこと、ずっと気にしてくれてたくせに、一歩も近づこうとしなかったところ。



(それはたぶん、“逃げてた”んじゃなくて、“気を遣ってた”んだよね)



私に、騎士の自分がふさわしくないかもって――

そんな、妙な優しさで身を引こうとしてたなんて。



……ほんと、バカみたいに真面目な人。



「……セリアちゃん。ちょっといい?」



――その声に顔を上げた瞬間、胸の奥が、きゅっとなった。



「この間のこと、ちゃんと言えてなかったなって思ってさ」



(……来た)



――その声に顔を上げた瞬間、胸の奥が、きゅっとなった。

 (その目は、ふざけた笑顔じゃなかった。まっすぐで、怖いくらい真剣だった)



なんとなく、わかってた。

この人は、いつか「ちゃんと」言いに来るってこと。



だから私は、今日、中庭にいたのかもしれない。



「……あれ、たぶん、全部本音なんだけどさ」



彼の言葉は、震えるほど不器用で、まっすぐだった。

臆病なのに、それでも向き合おうとしてくれる、そんな声だった。



「俺……セリアちゃんのことが好きだ」

「誤魔化したくないって思った。俺を選んでほしい……」



(……ずるい。そんな言い方されたら)



私は、泣くのを必死でこらえていた。



「……“ちゃんと”って、ジュリオにしてはずいぶん気合い入ってるのね」

「……じゃあ、こっちもちゃんと答える」



私だって、逃げない。



「私も、ジュリオが好き。あなたが助けに来てくれて、本当に嬉しかった」



心からそう思った。本当に、心の底から。



ずっと待ってた。あの人が、自分の言葉で、私を選んでくれる日を。



「セリアって呼んでも、よくてよ?」



ちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべながら言ってみると、

ジュリオは真っ赤になって、めちゃくちゃ狼狽えてくれた。



(……もう、かわいい)



そして私の方から、彼の胸に――飛び込んだ。



「……もう。遅い!! 俺を選べ!って、早く言いなさいよっ……!」



「わ、わーった!俺が悪かったってば!」


「今から取り返す!いちゃつくぞ!」


「ば、ばか!!」


そんな風に、やっと“恋人”になれた私たち。



――だけど、幸せって、やっぱり試練つきなのよね。



「………………」


背後から突き刺さる、冷たい気配。


「おい、ジュリオ」

「妹に手を出すなら、責任、取る気はあるんだよな?」



ヨナス兄さん。愛と正義の過保護モード発動中。



(……ま、ジュリオはこれくらいされて丁度いいけど)



私は、ちょっとだけニヤつきながら、兄と彼のやりとりを眺めていた。



「はいぃっ……!! 一生大事にしますスッ!!」



ジュリオの顔が、見たことないくらい真剣で、ちょっと面白い。



(……うん。大丈夫。大事にされてる。ちゃんと伝わってる)


そう思えたから、私はそっとつぶやいた。


「がんばってね、ジュリオ……クスッ」


その日、私は幸せだった。

だけど――きっと、ジュリオの試練はまだ始まったばかり。



ラブラブと地獄の狭間で、今日も彼は頑張ることになる。

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