第八話 – 「裏切り者の陰謀」
第八話 – 「裏切り者の陰謀」
レジスタンスのアジトでの訓練が続く中、井上は次第にセカンドコードを使いこなせるようになっていた。警察の兵士たちを精神的に揺さぶるその力は、確かに強力だった。しかし、それと同時に、彼の心の中には次第に疑念が湧き上がっていた。セカンドコードを使うことで、相手を倒すことができるということは、レジスタンスと警察の戦いにおいても大きなアドバンテージを持つことを意味する。しかし、それが本当に正しい方法なのか、井上は自分の中で確信が持てなかった。
「本当に、これが最良の選択なんだろうか…」
その日の夜、井上はふと、レジスタンスの基地で異変を感じ取った。普段から敏感に周囲の気配を察知するようになっていた井上は、誰かが自分を見ているような気配を感じ、振り返った。すると、そこに立っていたのはレジスタンスのメンバー、エリックだった。
エリックは、普段から冷静で理知的な男だったが、今夜はどこか違和感を感じさせる表情をしていた。彼の目には、いつもの冷徹さが欠け、どこか動揺している様子が見て取れた。
「井上…少し話がしたい。」エリックが声をかけてきた。
井上は少し驚きながらも、エリックに従い、基地の外れにある静かな場所へと歩みを進めた。
「どうしたんだ?」井上は尋ねると、エリックは一度深いため息をついてから言った。
「実は、私たちの中に裏切り者がいる。どうやら警察側と内通している者がいるようだ。」エリックの言葉に、井上は思わず息を呑んだ。
「裏切り者…?」井上は驚きと疑念を隠せなかった。レジスタンス内部に裏切り者がいるなんて信じられなかったが、エリックの目はどこか本気だった。
「レジスタンスの中に、警察と密に連絡を取っている者がいる。」エリックは声をひそめて続けた。「その者が、私たちの動きや計画を警察に漏らしているのは間違いない。」
井上は心の中で不安が広がった。レジスタンスの仲間たちは命を懸けて戦っている。その中に裏切り者がいるなんて、もし本当なら、誰が信じられるのか分からなくなる。
「誰だ…その裏切り者は?」井上は言葉を絞り出すようにして尋ねた。
エリックは一瞬躊躇した後、井上に視線を合わせながら答えた。「その者の名前は…ジョンだ。」
井上は驚きのあまり、言葉を失った。ジョンはレジスタンスの中でも信頼されている存在であり、特に井上とは何度も訓練を共にしてきた。まさか、ジョンが裏切り者だとは思いもよらなかった。
「ジョンが…裏切り者?」井上は再び問いかけたが、エリックはうなずいた。
「彼が警察側と連絡を取っているのは、確かな証拠がある。レジスタンスの動きを逐一、警察に伝えている。それが原因で、私たちの活動が警察に予測され、何度も危険にさらされてきたんだ。」
井上はその言葉を聞いても、信じられない気持ちでいっぱいだった。ジョンが裏切り者だなんて、彼の存在そのものが信用できなくなりそうだ。しかし、エリックの目には確信が宿っている。その確信を否定できる理由は、井上にはなかった。
「どうするつもりだ?」井上は少し考えてから、エリックに尋ねた。
「今は証拠を押さえる必要がある。ジョンが本当に裏切り者なら、私たちの計画を台無しにされる前に、何とかしなければならない。」エリックは慎重に話した。「だが、もしジョンが無実であるなら、私たちはレジスタンス内でさらに深い亀裂を生むことになるかもしれない。」
井上は深く考えた後、決断を下した。「俺もジョンを確かめてみる。今すぐにでも行こう。」
エリックは少し驚いた様子で井上を見つめたが、すぐに頷いた。「分かった。だが、慎重に行動してくれ。」
二人はその後、ジョンの居場所を探し、秘密の部屋に忍び込んだ。ドアを開けた瞬間、井上はその光景に一瞬凍りついた。ジョンが、警察の通信装置を操作している姿が目に入ったのだ。
「ジョン!」井上は声をかけた。
ジョンは一瞬、顔色を変えたが、すぐに冷静な表情を取り戻し、井上を見据えた。「井上…君は、ここに来るべきじゃなかった。」
その言葉の裏に何かを感じ取った井上は、冷静に問いかけた。「お前が、裏切り者だっていうのか?」
ジョンは沈黙した後、ゆっくりと答えた。「俺は…お前たちが思っているほど、単純じゃない。」
その瞬間、井上はジョンの目に一瞬だけ見せた苦悩の色を見逃さなかった。それが本当の意味で裏切りを示すものなのか、それとも何か別の事情があるのか。井上は心の中で迷っていた。
ジョンの行動の裏に何か重大な秘密があるのか、それとも裏切りが事実なのか。井上の心はさらに深い迷路に迷い込んでいた。
その時、レジスタンス内での選択が、これまで以上に重大な意味を持つことを、井上は直感的に感じ取っていた。