第二話 – 「フォネティックコード警察の脅威」
第二話 – 「フォネティックコード警察の脅威」
井上は、無理やり連れて行かれた矯正区で目を覚ました。重い頭を抱え、目の前の冷たい金属の床に膝をついた。背後では警察官が何やら話しているが、その声は遠く、彼の耳にはうまく届かなかった。
「ふざけんな…」
井上は弱々しく呟きながら立ち上がり、冷たい壁に背を預けて目を閉じた。どんな手続きを経て、ここに来たのかはわからない。ただただ、恐怖と混乱が支配していた。
だが、いくら混乱していても、ここが普通の場所ではないことだけはわかった。矯正区という言葉に、その意味の深さを感じ取った。恐怖と不安が募る中、彼は静かに周囲を見回した。
他の人々は無表情で座り込んでいた。顔色が悪く、目の焦点が定まらない。そのほとんどが、機械のように動かない。まるで、心を奪われているかのような状態だった。
「まさか、こんなところに連れて来られるなんて…」
井上は呟きながら、自分の立ち位置を自問自答する。自分は一体、何をしに来たのだろうか? ただ引きこもり生活を送っていた彼が、今こんなところにいるなんて、到底理解できない。
「発音が間違っていたのか…?」
突然、目の前に現れた一人の警官が、無表情で彼を見下ろした。井上は思わず身を縮めたが、警官は冷徹に言った。
「君がここにいる理由を知っているか?」
「何が原因なんだ?」井上は震える声で問い返した。
「フォネティックコードを守らなければならないからだ。」
その言葉を聞いて、井上の頭が混乱した。フォネティックコード。それは、世界中の言語を統一するための規定であり、この国では絶対的なルールとして支配しているものだ。間違って発音することすら、犯罪とされる世界。その力を使い、国家全体を管理するのがフォネティックコード警察だった。
「なぜ、こんなに厳格なんだ? こんな…厳しくて恐ろしい世界が、本当に正しいのか?」
「正しいかどうかなど関係ない。ルールに従わない者は、すぐに矯正される。」警官は感情を込めずに言った。
その瞬間、井上の胸を締め付けるような圧力が襲ってきた。恐ろしいまでの支配と規律。それがこの国を動かしているのだと実感した。
「君が反省すれば、すぐに解放されるだろう。しかし、発音の誤りを許すわけにはいかない。警察の命令に従い、矯正区で再教育を受けることになる。」
再教育――その言葉が井上の心に深く刻まれる。自分は間違った発音をしてしまっただけで、矯正区に送られ、再教育を受けなければならない。この無慈悲なシステムに従わなければならない。
その時、警官が冷たい視線で井上を見下ろしながら、もう一度口を開いた。
「覚えておくといい。この国では、フォネティックコードを間違えた者は、どんな理由があっても許されない。」
「でも…それは…」
井上は言葉を失った。発音を間違えたくらいで、なぜ命が脅かされるのか。それがこの国のルールだというのなら、どこかで逆らう方法を見つけない限り、永遠にこの支配から逃れられないのだろう。
警官は一歩踏み出すと、井上の腕を取った。
「君の教育はすぐに始まる。」警官は静かに告げ、井上を無理やり引きずっていった。
その後ろ姿を見送りながら、井上は心の中で誓った。この世界のルールに従って生きるわけにはいかないと。何とかして、この圧政を打破する方法を見つけなければならない。
だが、その時点では何もわからない。ただ、未来の見通しが全く立たない不安と、警察の支配に恐れを感じるばかりだった。