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第5話


 ◇


「変わってるよな、この山田透のパラダイス。シヴァンが一人で仕切ったやつだっけ」

「うん、そう。要望通り作った」

「こういうBL? って女子が好きなやつじゃん」

「いやこれは無理!」

 三人が話す様子を見ていたジュードは、笑みを浮かべながら口を挟んだ。

「偽名っすよね、この名前」

「発注のとき顔も声も隠してたわよ」

「必死で隠さなきゃいけない妄想をかたちにする方の気持ちにもなれよ」

 カノウは笑った。「ん? どうした、シヴァン」

 輪の中で一人だけ笑っていない様子を見て、カノウは聞いた。

「……この人すげえ喜んでたから、年契もいけると思うよ」

 そう言って、シヴァンは薄い笑いを作った。



 ビルの外では風が吹きつけていた。

 シヴァンは、はためく髪を押さえるニーナに言った。

「忙しいところ、ごめん」

 そこは、アジトの隠し扉の先のベランダだった。隠し扉は壁と同じ色に塗り込まれていた。ベランダからは隣のビルの非常用階段へ木板を渡し、つなげることができる。いくつかある逃走経路の一つだった。

「そこは『ありがとう』でいいでしょ?」

 冗談めかした言い方は、ニーナなりの気の遣い方だった。


「――泣いてたんだ、この山田って人」

「え、……うん」

 シヴァンは遠くの、LEDがドット欠けした東京タワーを見上げた。

「ありがとう、ありがとう、って僕に何回も言って。もういいって言ってるのに。

「……」

 ニーナは真剣な表情になってうなずいた。


「思いを果たせた、会いたかった人に会えて、言いたかったこと言えたって。

 変なこと言うけど、――なんか、胸がすごく痛くなって。あれ、なんでこのパラダイス作ってたんだっけ? って、わかんなくなって」


「割り切れば?――だってただの」

「大丈夫、今は割り切ってる。なんかさ、なんとなくニーナに聞いてもらいたかっただけだから」

「……最近ちょっと元気なかったの、そのせい?」

「そうかも」

「また聞いてあげるよ。プロジェクトがスタックするの嫌だし」

 目を細めるニーナへ、シヴァンは久しぶりに心から笑った。「ありがとう」


 扉の方をちらちら見るシヴァンの心配そうな表情を見て、ニーナは隠し扉の外鍵が壊れているのに気づいた。



 壁に貼り付けたモニターに、長大なリサーチ結果が表示されている。カノウが老人の顔をタップした。


「額田壮一郎。資産は少なくても7000億」

「SNSで漏らしたウォレット・アドレスや株の所有報告、不動産の登記からも間違いないです」

ジュードが補足する。

「テレグラムでやりとりした感じ、まじ金払い良さそうだったわよ」

「要望もすごそうだね」

「安売りしないようにな、こういうのは足元見られたら終わりだからな」

「絶対十代ってバレないようにしましょ」

「にしても、この人、匿名じゃないの度胸あるよね」

「自分の<素材>を提供しまくって、めっちゃカスマイズしたいパターンでしょ」

「信頼されてるとも言えますね」

「こんなギャングを信頼とか笑える」カノウは鼻で笑った。「――時間だ。ジュード、会議の用意してくれ」

 ジュードが操作をし、特殊なVPNと、フィルターをかませたウェブカメラをオンにする。


 画面に現れたのは高齢の男性。背後に豪奢なシャンデリアとシャガールの絵画が映り込んでいる。

 その横のウィンドウにアバターが4体。羊、牛、鳩、蛇。


「お時間いただき、ありがとうございます。パラダイスの『再現士』チームです」

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