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第3話



 イケメンハーレム_for_ishikawa_kyoko_ver1.07.pvar


「おはよう、恭子ちゃん!」

 朝日が差し込む通学路。歩く生徒たちの向こうから、背の高い男子が声をかけてきた。

「今日の髪型、いいじゃん! めちゃ似合ってるっ」

 金髪のやんちゃ系男子、リョウだ。隣に並んできた。

 恭子の髪型は耳上の髪を結ぶハーフアップ。こぼれる黒髪が風を受けてふわふわと揺れる。

「いつもかわいいけど、今日のは特に最高だな」

 片方の隣に歩み寄って笑顔を向けるのは、爽やかなスポーツマンのマコト。

「おい、俺が最初に気づいたんだぜっ」「なんだと?」

 リョウがマコトに絡む。「やめなよー」と恭子は間に入ってしどろもどろだ。

「恭子ちゃん、好きな男の子でもできた?」

 小動物系男子のナオトが合流して聞いてくる。

「そんなことないよ!もー!」

 恭子は照れて手を横にぶんぶん振る。

「お前らうるさすぎ。朝から騒ぐな」

 苦言を呈してきたのは、離れたところを歩いていた俺様系男子のタクミだ。

「――あなた、私のことはいいけど、みんなのことは悪く言わないで!」

「俺に口答えするのか……おもしれー女」

 タクミの鋭い目から放たれたきらめきに、恭子の頬は赤らんだ。


 校門を過ぎる頃、恭子は学園のアイドルさながらに注目を集めていた。

 男子生徒たちの視線で、鼻先がくすぐったい。

 恭子は、靴箱の前で小さくつまずいた。男子たちが気遣う。

「危ないよ」「大丈夫?」「気をつけろ」「ほらよ」

「う、うん……ありがとう」

 差し出された手のどれを取ればいいか、恭子は迷った。


 石川恭子は、高級独居用マンションの電動ベッドの上で、ヘッドギアの向こうにこの光景を見ていた。今は、膝の不調も大人用紙おむつの違和感も感じない。

 皺だらけの手を伸ばす。そこはただの空中だったが、確かに石川恭子はひとりの男子の手を取ったのだった。


 ◇


 裏路地をアジトへと向かう一人の若者。スマートグラスの中の真剣な目が、スマホ上のメモを往復していた。


 ・溢れ出るドーパミン

 ・徹底的に媚びたアーキテクチャ

 ・高いサービス継続率

 ・払われ続ける高額サブスクリプション


 それは、「これから」のための復習だった。


 彼は、金属扉を小さな音でノックした。

 ニーナがチェーンをつけたまま合言葉を問いかける。「黙示録2の7は?」

「勝利を得る者に、パラダイスにあるいのちの木の実を」

 彼は答えた。

「入っていいよ」「失礼します!」


 黒髪をセンターパートに分けた、人懐っこい笑みの少年が会議室に入ってきた。

「ジュードです。面接にお呼びいただき、ありがとうございます」

「お前が噂の大学卒の優等生か」

「とんでもないです。皆さんの方がすごいです。尊敬してます」

 カノウは満足そうに顎をしゃくる。

「こちらへどうぞ」ニーナが、ジュードを折りたたみ椅子に座らせる。

「シヴァンから聞いてる、モーションとかインタラクション設計が得意なんだって?」

 ジュードは、カノウの言葉に答えながらスムーズに自己紹介に繋げ、豊富なプログラム経験を語った。


「じゃあテストしていい? ディレクターの立場でこのハーレム・パラダイスを調整するとしたらどうする?」

 シヴァンの示した仕様書やログを斜め読みすると、たいして時間をかけずしてジュードは言った。

「刺激に対して順化している気がしますね。素直な会話が多いのかもしれません。順化が進むタイミングでキャラが裏切る方向にAIの発言を変えるようにすれば、もっと興奮度が上がるはずです。例えば……」

 ジュードはキーボードを借りて叩き出した。

 シヴァンが興味津々で覗き込む。ジュードはAIでコードを生成したあと、数行を追加して、モニター上でイケメンキャラのセリフをリアルタイムで変化させた。

「心拍数がトリガーに当てはまったら『嫉妬イベント』を挟む、というようにしてみました。このタイプのユーザーには相性いいはずです。バーチャルツインをあてがってシミュレーションしてみると……うん、うまくいきそうですね」

「なるほど、フラグを細かく割り振るわけか」シヴァンが口角を上げる。

「はい、もっと言うと」そこから、しばらくの間、二人は面接であることも忘れ専門的なトークを続けた。

 ニーナが程よいところで咳払いをした。「……そろそろ続きいい?」


 ニーナとジュードが人柄に関するやりとりをしたあと、コードを読んでいたカノウが顔を向けて言った。

「まあ腕は認めるが。お前はなんでこの仕事をしたいんだ?」

 ジュードは正面からカノウを見て言った。


「最短距離の政治だからです」

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