断罪と婚約破棄
初投稿です。これはピクシブで書いた婚約破棄ものにおける処女作を改稿したものです。元の話は同名のアカウントで投稿しています。よろしければそちらもご覧になってください。
文面など色々拙いですが、温かい目で見てくださると嬉しいです。
それはとあるめでたい日、レイヴンフォレスト王国王立学園の卒業を祝う夜会で起こった。
「マリア・スカーレット!今日を持って、貴様との婚約を破棄する!」
レイヴンフォレスト王国の王太子、ケイオス・リード・レイヴンフォレストは目の前に佇む婚約者である少女にそう高らかに宣言した。
「お言葉ですが、王太子殿下。何故婚約を破棄なさるのか理由をお聞かせくださいませ。いくら王太子と言えどもそう簡単に婚約は破棄できませんわ」
艶やかな栗色の長い髪にエメラルドを思わせる緑色の目をした少女―マリア・スカーレットは、毅然とした態度でそう述べた。
「理由だと?そのようなものなど分かり切っている!貴様がシェリル・ローゼフォード男爵令嬢を虐げていたからに決まっているだろう!」
(この人、正気なの?)
婚約者の発言にマリアは少々引いた。
王太子の追及はまだ続き、
「貴様は自分より身分が低いシェリルが俺に気に入られていることに嫉妬し、彼女を苛めていたそうじゃないか。人気のないところに呼び出して突き飛ばしたり、教科書やノートを破いたりもしたそうだな。名門の公爵家の令嬢がそのようなことで他家の令嬢を苛めるとは…嘆かわしい」
(はあ!?ホント何この人…)
その追及は全く身に覚えはなく、見当違いも甚だしい。挙句の果てにはあちらが嘆きだしこちらを糾弾してきた。呆れと怒りが同時にマリアを襲ったが、公爵令嬢らしく抑え、再び毅然と相対する。
「私、そのようなことをした覚えはございません。殿下はそうおっしゃいますが、明確な証拠はあるのでしょうか」
「シェリルからの証言がある、それが立派な証拠だろう!それで十分だ!」
ケイオスはマリアの問いかけに男爵令嬢の証言で十分であると胸を張って答えた。果たして仮にも一国の王となる者が片方の証言だけで相手を糾弾してよいのか、逆にこちらが嘆きたい気分だとマリアは思った。勿論表にも口にも出さないが。
マリアは、王太子の腕にしがみつきながら怯えているような少女をちらりと見た。鮮やかなピンク色のふわふわとしたロングヘアに淡い紫色のぱっちりとした瞳。見るからに庇護欲をかきたてられる可愛らしい容姿をしている。
(確か、ローゼフォード男爵の末娘だったわね…。男爵や男爵夫人、兄君達から大層可愛がられているとか…)
「ケイオス様、わたしは大丈夫です。マリア様はわたしとケイオス様の仲が良いから、嫉妬なさってるんだと思います…。わたし自身も分かってはいたのですが、もう耐えられません…。今なら謝ってくだされば気にしませんから…」
「苛められてもなお、あの悪女の心配をしているのか…。シェリルはなんと慈悲深い…まるで聖女のようだな」
両目に涙を湛えながら弱々しく言葉を紡ぐ男爵令嬢。そんな彼女をいたわるように優しく髪をなでる王太子。その光景はまるで絵物語のようであった。
「(もう…限界…!)…さっきからふざけたことばかり言いやがって…」
ポツリと淑女らしからぬ言葉が聞こえた。周囲を見回して声の主を探すと…
「婚約破棄?そんな婚約者と結婚なんざ、こっちから願い下げだ!」
先程から黙っていたマリアだった。彼女はまた公爵令嬢らしからぬ口調で叫んだ。
「「は?」」
突然の婚約者の変わりように、王太子と男爵令嬢は思わず目を丸くした。それは周囲の貴族たちも全く同じであった。ただ、マリアの親であるスカーレット公爵夫妻だけは驚かず頭を抱えていた。
「もう一度言ってやるよ。そんな婚約者と結婚なんざ、こっちから願い下げだ、ってな」
「お、王族に対して不敬だぞ、マリア!」
下手すればスカーレット公爵家が取り潰しになりかねない言葉に王太子は怒った。
「そもそも王太子がそんなことしなけりゃ、アタシもこんなに怒ることなかったんだけどな」
その言葉に対して、相手側がこのような茶番劇をしなければこちらも穏便に婚約破棄できたと暗に言って王太子を睨む。
「貴様がシェリルに嫉妬して苛めなければ俺も、夜会で婚約破棄などすることもなかったんだぞ!」
王太子も負けじと反論する。しかし、マリアはそれを意に介さず、
「はあ?嫉妬?そんな下らねえ真似、アタシがする訳ねえだろ。それに、おい、そこの男爵令嬢」
「な、何でしょうか?」
突然口調が変わった公爵令嬢に困惑しつつも、男爵令嬢は応えた。
「アタシはこんな王太子のことなんか、好きじゃねえからさ、あんたの好きにしろよ」
「…よろしいのですか?」
「政略結婚だからな、双方に愛情なんてないしな」
「ま、マリア。お前は俺のことが好きじゃなかったのか⁉」
「はあ?嫌いだよ。この流れで分かるだろ。で、本題だけど、婚約破棄はそっちからでこっちもそれに対して反対しない…つまり双方の合意における解消ってことでいいよな?」
「…分かった」
王太子は屈辱ながらも頷いた。その隣の男爵令嬢はマリアと王太子の顔色を窺っているのかどこか挙動不審であった。
「この場からは帰らせてもらうが、その前に…」
「??」
王太子だけでなく、周囲も公爵令嬢の言葉に疑問符を浮かべる。
マリアは王太子に近づくと、右手で王太子の頬をためらいなく平手打ちした。
「⁉」
その平手打ちは、マリアの華奢な腕からは想像できないほどのパワーがあり、勢いもあった。そのためか、王太子はその反動で後方によろけてそのまま尻餅をついた。
「…(本当は殴ってやりたかったが、今回はこれで勘弁してやる。)それでは、これからは婚約者でも何でもないのですから、用もなく声を掛けないでくださいね」
先程までの令嬢らしからぬ言動から一転、マリアは優美な笑みを浮かべ、王太子にそう述べると周囲に向き直り、
「皆様、このような祝いの場で騒ぎを起こして申し訳ございませんでした。それでは私はこれで失礼いたします。」
周囲の貴族達に謝罪の意を述べたあと、尻餅をついたままの王太子をちらりと一瞥すると、自身が抱えている怒りを感じさせない華麗なカーテシーをして、夜会会場を後にした。
そしてマリアが去った後、この場にいるほぼ全員がぽかんと口を開けたまま呆けていたという。
いかがでしたでしょうか。拙い文章なのですが、楽しんでいただけたなら、高評価をお願いできるとこちらの励みになります。