ツッコミどころ満載ミステリー 〜 犯人は菊池 〜
こちらはコロンさま主催『菊池祭り』参加作品になります。
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密室殺人事件が起きた。
場所は誰もが気軽に利用できるオープンスペースだった。
「目黒警部、ご苦労様です」
そう言ったのは現場に誰よりも早く駆けつけていた私立探偵の私、菊池小五郎だった。
「あっ、菊池探偵。お疲れ様です」
警部は深々と頭を下げて会釈すると、私に聞いた。
「それでこれはどういう事件なんですか?」
「密室殺人事件です。早速現場をガチャガチャとかき回してみましたが……めぼしい手がかりは何も見つかりませんでしたよ」
「そうですか……」
警部は部屋の中を見回した。
胸から血を流して被害者が床に倒れており、その指先には、最後の力を振り絞って書いたのであろう、己の血を使ってダイイングメッセージが残されていた。
「あっ!」
警部が声をあげる。
「ダイイングメッセージだ!」
「本当だ!」
私も叫んだ。
「よく気がつきましたね!」
そこにはこう書かれていた。
犯人は 菊池
「おまえが犯人だな? 署まで連行する」
警部が私に手錠をかけた。
「──いや待ってくださいよ。それは早とちりというものだ。菊池なんて名前の人間は私の他にも何人もいる」
「すみませんでした」
警部が私から手錠をはずす。
「しかしこれは有力な手がかりです。犯人の名前がわかっているんだ、これはもう解決したも同然でしょう」
「よし、早速日本中の菊地を洗ってくれ」
警部が頼もしく部下に命令する。
「九州から沖縄までくまなくだぞ」
「頼んだぞ、みんな」
私は彼らを顎でこき使った。
「ところで君は誰だね?」
頸部が私に聞いた。
「これは申し遅れました」
私は立ち上がり、回転椅子に座ったまま、自己紹介をはじめる。
「私立探偵の菊池小五郎といいます。よろしくね」
「どういう人なんです?」
刑事が警部に聞く。
「彼はかつてうちの署で署長を務めていたお方だ」
「それはすごい」
私は威厳を見せながら、少し訂正した。
「一日署長をやらせていただいたことがあるんですよ」
「なるほど。それじゃ、有名な俳優さんとか……もしかしてアイドル?」
「ゆるキャラの中の人です」
「……それはすごい」
「すごくないっしー!」
私が高い声で叫ぶようにそう言うと、その場のみんなか大いに沸き上がり、私にサインを求めてきた。
「こんなことをしている場合じゃないでしょう!」
そう言ったのは、部屋の隅に立っていた制服姿の警官だった。制服といってももちろんセーラー服ではない。
「早く犯人を見つけてください!」
「その通りだな。……わかった」
私はサインを欲しがる婦人警官をなだめると、聞いた。
「……で、第一発見者は誰です?」
「本官であります!」
さっきの制服姿の警官が敬礼をしながら言った。制服といってももちろんナース服ではない。
「本官は、被害者が殺害された時、この部屋に既におりました!」
「名前を聞いてみようか」
「はっ! 菊池であります!」
「何だって!?」
私は思わず声を上げた。
「私と同じ名前じゃないか! 菊池の名前をもつ人間に悪いやつはいないよ、ウン! ちなみに下の名前は?」
「はっ! 菊池流星と申します!」
「いい名前だ」
私はじーんと胸に込み上げるものをおさえながら、泣いた。
「ブルージェイズの菊池雄星によく似た名前じゃないか。……ちなみに作者は野球選手の名前をほぼ知らないが、広島カープの菊池涼介選手のことも知っている。数少ない知ってる野球選手の中に菊池が二人もいるなんてすごいことだぞ」
「そうですね!」
「ちなみに菊池雄星も菊池涼介もどちらもイニシャルがRKだ」
「すごい! 本当ですね! さすがは探偵! 観察眼がすごいです!」
傍らで警部が何かツッコミをしたそうにしていたが、黙っていてくれた。
「ところでこれは保険金目当ての殺人です」
私は話を殺人事件に戻した。
「被害者は多額の保険金をかけられていました。受取人は誰ですか?」
「はっ! 私であります!」
菊池流星巡査が手をあげた。
「何だって?」
私は思わず声を上げた。
「すごいな! よかったじゃないか! 大金持ちだな! 宝くじに当たったようなもんだぞ! 捜査が終わったら何かご馳走してくれよな!」
「わ、私も呼んでくれるかい?」
横から警部がもみ手をしながら笑顔を挟む。
「彼女とは結婚の約束をしてました。それなのに……」
菊池流星巡査は涙ぐむと、顔を上げ、嬉しそうにぱあっと輝かせた。
「そうですね! パアッとやりましょう!」
「あのう……」
ずっと黙って立っていた被害者の両親が、ようやく口を開いた。
「うちの子、男なんですけど……」
寝ていた被害者が顔を上げ、笑顔でピースサインを決めた。
かくして事件は迷宮入りしたのである。