第20話①シーズン第2戦
シーズンが始まり2戦目を1週間後に控えた練習後にロッカールームの端で、自分のロッカーに座りタオルを頭からかけて動かない男がいた。
田村だった。
田村は泣いていた。
先ほどまで行われていたミーティングで第2戦のメンバー発表があったのだが、そこで田村はリザーブだがメンバー入りしたのだった。
メンバー発表の後の試合で着用するユニフォームを監督から受け取る列ができていた。
21番を渡す時に監督が下がった。
不思議に思う田村の前には田村の母親が
21番のユニフォームの上に手作りのお守りを乗せて田村に渡した。
横にいた父親が右手を差し出して、田村と力強く握手を交わした。
数年間試合に出られなくても努力を怠らなかった、そんな田村を励まし続けた家族の存在の話を田﨑は知っていたから、チームと計画を立て両親をクラブハウスに呼んでいた。
そして田村の努力、悔しさ、虚しさ全てを近くで見守り続けたチームメンバーも涙を浮かべて見守った。
田村の母はラグビーを始めてから、試合の度に手作りのお守りを作ってくれた。
田村の手の中にあるお守りは
青い鳥のイラストと 1stキャップ
と刺繍がされていた。
フェルトが少し色褪せていた。
社会人になってすぐに作って田村が試合に出る日を信じて何年も大切に持っていてくれた母の気持ちを握り締め、田村は次戦への勝ちへの決意を静かに固めていた。