第19話②田村拓人
そこに東の大将が
タンシチューをテーブルに運んできた。
「6時間煮込んだから食べて温まってよ。
サービスだからさ。感想聞かせてよ。」
大将はブルーウイングスのメンバーをいつも見ているから少しの変化にも気が付いてくれる。
今日も田村の表情で異変に気がついたのだろう。
しかし励ますことは、大将は絶対にしなかった。
外部の人間が知ったかぶりをして声をかけるのは違うと考えているからだ。
ただ大将は言葉の代わりに落ち込んでいる選手にはそっと料理を差し出してくれる。
「美味しそうですね。
いただきます!」
早速田﨑と田村は柔らかいトロけるタンを夢中で食べた。
たくさん食べる田村を見て、少し安心した大将は
少し笑顔になって言った。
「おかわりいるか?」
「うまいです。
おかわり欲しいです。
それにしても、大将は何者なんですか。
洋食も作れるんですね。
このタンなんて歯いらないですよ」
田村は答えた。
田﨑もお皿を差し出しながら言った。
「自分もお願いします」
温め直したタンシチューをテーブルに置きながら、大将は言った。
「銀座のホテルのレストランで働いていたからフランス料理の方が得意なんだよ。
フランスで修行する話も出ていたくらいだから」
「えっ?じゃあ何で辞めてこのお店を始めたんですか」
大将がお店を始めた経緯を知らない田村が聞いた。
「親の店だったんだけど、ちょうどフランス行きが決まった時に親の体調が悪くなって、
俺が男気出して親に相談もしないで、ホテル辞めて店を継ぐって言い出したんだよ」
「お父さんとお母さん達がそれを望んだんですか?」
「いいや。全く」
大将は笑った。
「そこからは田﨑くんは知ってるよね。
お店は全くうまくいかなかったし、
親にも当たっちゃってね。
『こんな潰れかけの店なんか継がずにフランス行けば良かったよ』って」
「ご両親ショックだったんじゃないですか。そんなこと言われて」
「それが全く。『頼んでないわ!』って親父に言われるし、おかんには『ウジウジ後悔するなら、フランス飛び込めば良かったのに。
なんでその時だけいい子になるんだよ。散々迷惑かけてきたのに』って、昔のこと出されて怒られるし」
「怒鳴られている姿想像できますね」
と、笑う田﨑と田村を見て大将は続けた。
「親父が酔っ払って言ったことがあったんだ。
『あの時俺が体調壊したから、俺を助けるっていう逃げ道をお前に与えたな。ただよう、、、俺は結果挫折したとしてもお前には挑戦して欲しかったよ』親父にはばれていたんだよな。フランスに行くことに不安を感じていたこと、何か適当な言い訳見つけて俺が逃げたことをさ」
田村の顔をじっと見たまま、大将は言った。
「後悔する選択はしちゃいけない。
もっと惨めな結果になるかも知れない。
その時に自分を正当化する言い訳があると楽かも知れない。でも、俺は逃げたことを後悔したからさ、まだ若い2人には同じ後悔はしてほしくないな」
大将は、田﨑と田村の肩を叩いて厨房に戻った。