第19話①田村拓人
開幕戦勝利によりチームの士気が高まる中、田﨑は田村の様子が気になっていた。
田村は田﨑の高校大学の後輩であり、長い時間一緒に練習を行ってきた。
田村はおとなしく真面目な性格であったが、プレイスタイルは超攻撃的でありながら、持ち前の真面目な性格のため丁寧さがあった。
田﨑は田村のプレイが好きだった。
しかし、試合の出場機会には恵まれず中村建設に入社して5年目だが、公式戦には出場経験がなかった。
それでも田村は腐ることなく練習に参加を続けた。
仕事も激務だが、練習に遅刻した場合は遅刻した時間プラスアルファ自主練をしてから帰宅する日々を過ごしていた。
勝負の世界に限らず、努力が全て身を結ぶという綺麗事なんてないことは、大人なら全員理解していることだ。
しかし、田村の実の結ばなさは周囲のメンバーも同情してしまう程だった。
田村自身も
「神様に嫌われてすぎですね。
でも神様に愛されるにはまだ練習が足りないということだから、練習やるしかないですね」と半ば自嘲的に話している。
4年以上も試合に出ることなく、ハードな練習を続ける田村を、理解できないと感じるメンバーもいたが、田村はチームに残ることを毎年選んだ。
その田村が練習中ボーっとしている時間があることに田﨑は気がついた。
「たむらぁー危ないっ!」
試合形式の練習の際にボールが飛んできているのに、田村は気が付かず顔面に思いっきりボールをぶつけた。
他の選手なら笑い話で、
「練習中に寝るなよ」
と冷やかされて終わるが、真面目過ぎる田村のこの失態にはみんなが心配をした。
その日の練習後に田﨑は田村を割烹東に誘った。
東に到着し、田﨑はビールを注文したが、明日も仕事があるからと、田村はウーロン茶を注文した。